47)バイクに乗って旅に出た2005夏(その四)_
副題・・・「ちょっと面倒な事」
 「尻で感じる」で出てきた「リム打ちパンク」それを回避する方法として、路面の障害物に衝突する瞬間タイヤにかかる力を緩める(荷重を抜く)というのがあります。 

 通常の緩衝装置(サスペンション)を持つバイクの場合は、走行中に急速に前輪ブレーキを掛ける事で、前輪に荷重が移り、サスペンションのバネが通常より圧力を受けて縮みます。そして次の瞬間ブレーキを一気に開放すると、バネに蓄えられたエネルギーによってバイクの前部が跳ね上がるように持ち上がります。この持ち上がっている状態を荷重が抜けている状態といいます。

 たとえば体重計の上で一回縄跳びをすると仮定します。体重計の上にそっと乗った状態では体重計のメモリは「体重KG」です。ゆっくり膝を曲げ屈んで力を蓄えます。そして縄を飛ぶ為に膝に蓄えた力をつかって一気に伸び上がります。このとき体重計のメモリは「体重+伸び上がる力」になります。そして膝が伸びきって身体が浮き上がり縄を飛ぶ瞬間は体重計のメモリは「ゼロ」若しくは体重計の可動部分の慣性により一瞬「マイナス方向KG」に振れます。これが荷重の抜けた状態です。

 このような荷重の抜けた状態を意図的に作り出し、障害物を安全に突破するのが荷重を抜く(抜重)バイクコントロールです。通常は前輪ブレーキによる荷重コントロールと同時に「ブレーキ荷重と逆理屈」の後輪に駆動力を駆ける事でさらに前輪の荷重を抜く動作を併用する事で、滑りやすい路面でもスムーズな障害物突破を行います。  
しかし、このバイクは前輪サスペンションの構造上、 ブレーキを掛けて移動した荷重が直接バネの下側に取り付けられたリンク構造によってホイルに伝わってしまうので、急激なブレーキによってバネを縮めてエネルギーを蓄えて抜重に使うといった事が物理的に出来ません。

*前輪の荷重を抜くためには、後輪へ強い駆動力を駆けるしかありません。  
 実際には障害物の直前まで前後ブレーキで減速して進入し、直前で「ポン」と駆動力を駆けて前輪の抜重をして突破します。 「ポン」と、瞬間的に大きな駆動力を駆けるには、一瞬クラッチを切り、スロットルバルブを開きエンジン回転を上げた状態でタイミング良くクラッチを繋ぎエンジンの爆発力とフライホイルの慣性力を同時に使う事で通常より大きな瞬発力を得ます。

 一般的に「フロントアップ」などと呼ばれる手法ですが、これはオフロードバイク(悪路走破対応バイク)の障害物を越える際の常套手段です。 しかしこのバイクの場合は、緩衝装置(サスペンション)はある程度悪路走破性を考慮された設計になっていますが、動力伝達機構上は、悪路走破を考慮された設計になっていないので、「ポン」「ポン」と強くフロント加重を抜く動作を繰り返すと、「ちょっと面倒な事」が起こります。
 通常使用で発生する程度の、衝撃を吸収する為の部品は、変速機の入力軸に付いていますが、瞬間的な過大負荷を加えると、部品の許容量を超えてしまい、吸収し切れなかったエネルギーが、噛合している斜羽歯車の作用で、立て方向に働いて、それを支えている、ラジアルボールベアリングを、やっつけてしまうのです。 
 それは変速機の入力軸(インプットシャフト)から中間軸(カウンターシャフト)へ動力を伝達する歯車が斜歯車(はすばはぐるま)(べベルギア)である事や、その前段階にあるバネによる衝撃吸収機構の許容量の限界や、軸受けそのものの強度など、原因とおぼしき要因が挙げられますが、根本的な部分として、
 あまり無理をさせると壊れるという事です。(笑) 
 フル積載状態で、悪路の下り坂で、障害物をピョンピョン越えると、こうなります(笑) 
綺麗に洗車されて車庫に並べられたバイクの写真
 剣山林道を出た段階で、なにやら不調の兆しを感じるものの、しばらくなりゆきにまかせて騙し騙し走り続けます。当然症状が悪化の一途を辿ります。しかしクラッチを上手に繋ぐと普通に走る分には機構的に問題無いのですが、

 今にもぶっ壊れそうな「ガラガラ」音が激しく周囲に響き渡り、心理的によろしくありません。そうして不調の原因について概ね察しがついた頃、見当をつけて整備(メンテナンス)を開始します。まず車体を綺麗に洗浄してから、適当にバラして変速機を取り外します。
車体後方より見たエンジンのクラッチ部分の写真
 バラした車体を真後ろから見たエンジンの後ろ側の図です。ここが変速機が合わさる(北海道弁)(噛合する)クラッチ部です。手前にクラッチプッシュロッドが突き出している根元部分が出力軸で、そこのスプライン(立て縞溝)に変速機の入力軸が噛み合います。
車体から下ろされた故障した変速機の写真
 これが変速機です。中心にあるスプライン(立て縞溝)の切ってあるのが入力軸(インプットシャフト)です。これを支える軸受けに数ミリの「ガタ」が発生しており、変速機を分解して軸受けを交換して、組み直すしか解決手段はありません。

 これを分解整備するには専用の冶具とゲージ類、シム類、常磐に高精度のダイアルゲージ等が必要になり、手持ちの道具達では役不足なので、ここから先の作業はディーラーに任せる事にします。
ファイナルドライブケースを分解しようとしている写真
 ほかにも後輪を支えるスイングアームのリンク機構の一部に数ミリの「ガタ」が発生していました。
フローティングピボットベアリングが壊れている写真
 スイングアームを支える最末端の終減速機箱(ファイナルドライブケース)を支える浮遊軸軸受(フローティングピボットピンベアリング)に数ミリのガタが発生していました。すでに途中でテーパーローラーベアリングが分解しています。このベアリングもペアで交換します。ここも悪路走破用バイクとしては構造的弱点です。
丈夫なはずのエンジンガードの取り付け基部にひびが入っている写真
 ついでに度重なる衝撃を受け続けたエンジンガードの取り付け基部に「ひび」(クラック)が発生していました。まあこれは仕方ないでしょう。やることやったら結果は起こるものです。通常の悪路走破用バイクには無い、強力な打たれ強さの秘密がこれで、当該バイクの核心的部分です。
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