55)ブラックスネークカモ〜ン
「燃焼室」に戻る 表紙に戻る
2005年10月 冬を前にスパイクタイヤを作るために稚内に向かいました。
バイクのメンテナンス情報です。
 いつもお世話になっているバイク仲間から、業者に作ってもらったスパイクタイヤの利きが今一つで、宗谷岬裏の丘の坂が登れないのをなんとかしてほしいという要望を受け、タイヤに強力な増しピンをしてバージョンアップさせる計画でピン打ち機材一式をバイクに積んで稚内に向かいました。

 札幌から稚内に向かうコースは日本海沿いの快速国道232号線通称オロロンラインを使います。この道は美しい夕日を肴に走れる気持ちの良いルートです。この日も順調に夕日を見送り夜の8時には到着出来る予定で北上していました・・・
暗い中コンビニの駐車場の片隅に停まっている荷物満載のバイクの写真
1)
・・・ところが、天塩町の手前で突然エンジンが停止してしまいました。そして再始動不能です。ライトの暗さからバッテリーが力尽きた事が伺えます。日が暮れて真っ暗な国道で一人途方に暮れてみます。とりあえずジャケットを脱ぎ防寒装備を解除してバイクを町まで押して行く事にします。さてどうするか?途中考える時間はたっぷりあります。

 1時間以上押してようやく辿り着いた町外れのコンビニエンスストアー、50kmは押した気分の身体に水分や食料をたっぷり補給して一息入れます。しかし実際には5km程度だったりします。
デジタルサーキットテスターでバイクの電源電圧を測っている写真電圧は11.87ボルト
2)
事情を話し店の敷地の片隅で修理を開始します。まずはテスターでバッテリーを調べると明らかに電圧が低い

***原因としては***

1)発電していない
1・1)発電機が壊れた
1・2)発電機を制御する電子回路が壊れた
1・3)配線やコネクター部の接触不良
2)バッテリーが壊れた
3)どっかの部位で大量に電気を食っている
4)バイクの機嫌が悪い
5)フレミングが草葉の陰でいたずらをしてる
クランクシャフトプーリーと千切れたオルタネーターベルトの写真
3)
原因は、1)でした。
カバーを外して調べると発電機(オルタネーター)を回しているベルトが切れていました。 切れる前兆は特にありません。しかし切れた瞬間は、なんとなく思い当たるふしがあります。

 それはゆるいカーブを抜けて加速したとき、まるで舗装したての路面を走った時のような、細かなアスファルト屑が、タイヤに粘りつき跳ね上がり、フェンダー裏にぶつかるような小さい「プチプチ」音がしていました。
千切れたオルタネーターベルトとスピードメーターの写真走行距離は積算6万9千7百90キロ
4)
ベルトが切れたであろう場所からバッテリーの電力を使い切ってエンジンが止まるまで約120km程、 ヘッドライトやメーター照明が暗くなってきたなと気が付いた時には既に遅く、間もなくエンジン停止、もしベルトが切れた段階で事態に気が付きABSを切ったりして電力を節約する事が出来れば、最後の5kmは押さずに済んだかもしれません。でも逆に走れ過ぎて天塩町を過ぎてサロベツ原野の真っ只中で止まっていたかもしれません。

 このバイクは約7万キロでオルターネーターベルトが切れるという事がわかりました。また、ベルトが切れてもしばらくは走れる事もわかりました。 ベルトは酒のつまみの裂きイカのように、ばらばらになって切れています。
コンビニで買った厚地あたたかストッキングお得用三本組の写真
5)
(起)ベルトが切れて発電機が止まる、(承)電力が供給されなくなる、(転)バッテリーの電気が減る一方になる、(結)エンジンが動くための電力を使い切りエンジンが止まる。 結果も原因も判った所で、さてどうするか? 解決方法はいたって簡単、切れたベルトを交換するだけ、問題は交換するベルトをどうやって調達するか?という事

 自動車の勉強をしていた頃、聞きかじっていた事で「エンジンのファンベルトが切れたら、ストッキングで応急修理が出来る」というのがありました。 とりあえずその線でいくしかない、、、40デニールって偉いのか?早速コンビニでストッキングを物色する怪しい男、店で一番強そうなストッキング「厚地あたたかタイプ」お得用3足入りを選びました。
真っ黒なストッキングを左手にすっぽっり被せて蛇に見立てて遊んでいる写真
6)
まずは手に履いて
「ブラックスネークカモ〜ン」・・・などと遊んでみる。
やはりレッドスネークじゃなきゃ気分が乗らないなぁ・・・

 「遊んでる場合では無い」

 このようにストッキングは非常に柔軟で引っ張ればいくらでも伸びてしまい、そのままでは動力伝達ベルトとしては全く使えません。
千切れ残ったオルタネーターベルトと作成したストッキングベルトを膝に被せて長さを合わせている写真
7)
そこで、まずは生地の伸びを取ります。ストッキングの足先を縛って輪を作り、一端を両足に掛けもう一端を両手に持ってボート漕ぎのように踏んばって渾身の力を込めて引き伸ばしていくと元の長さの10倍以上になります。 それを幾重にも束ねて捻り一本の強力なストッキングベルトに仕上げます。

 実際作ってみるとなかなかの強さで数百キロの引っ張り強度は有りそうです。これなら代替ベルトの材料となりそうです。材料をベルトの切れ残りと共に膝に被せて長さを合わせて縛り、代用ベルトを作ります。 元のベルトはVリブドベルトといって溝が複数ある平たいベルトです。ベルトの表示から、長さは611mmでベルトの溝が4山あった事がわかります。
ストッキングで作った代替えベルトを正しくエンジンに装着している写真
8)
ストッキングの代替ベルトは表面がつるつるで滑り易く、同じく表面のつるつるのプーリーと摩擦力はあまり期待できませんが、それを見越して短めにベルトを作りタイヤレバーを使って張力強めにセットします。

 動作確認すると、ほぼ丸断面の代替ベルトがみみ(縁)の低いプーリーから外れてしまう事も無く、実験上ではスムーズに回ってくれます。

 始動準備を整えて、駐車場に面した道路までバイクを押していき路面の傾斜を利用して低い方に向かって一気に押して走ります。加速がついた所ですかさずクラッチを繋ぎ、エンジンを掛けます。ダッシュ3回目で押し掛けが成功してエンジンに火が入ります。 すぐに安定したアイドリング状態になり、発電機もしっかり回っています。試しにライトを4灯全部点けてみますが問題ありません。
表面がボロボロになって千切れてしまったストッキング代替えベルトとプーリーの写真
9)
よし直った出発準備だ、と思ったらエンジン停止、ストッキングベルトは3分程で切断してしまいました。 さらに張力をかけて幾重に重ねて強度を増し、伸びの少ないベルトを作り、再びチャレンジするも、やはり数分で切断してしまいます。 結び目付近の切断面は溶断です。表面も溶けてぼろぼろになっています。

 3度チャレンジして、この場ではストッキングでの復旧は断念します。ストッキングは引っ張り強度は十分でも極端に熱に弱い事が弱点でした。 しかしプーリーに滑り止めを施せばまだ可能性はありますが、今回はあきらめます。
バイクの装備として携行している長さ160CMの黄色いスリングベルトの写真
10)
さて次の手を考えます。

 手持ちの物で使えそうな材料を探してみると・・・スリングベルトがありました。これは登山に使う道具で墜落や転落を防ぐ為に身体を確保する道具です。トン単位の張力に耐える丈夫なベルトです。
携帯用工具入れと工具達の前に置かれた作成中の代替えスリングベルトの写真
11)
非常にもったいないのですが、切断してガストーチで炙り、溶かして溶着させて代替ベルトを作ります。

一本のスリングベルトから二本代替ベルトが作れました。
完成した代換えベルトをクランクシャフトプーリーに取り付けようとしている写真
12)
一度目は短めに作りすぎ、装着途中に張力に耐えられずに切断してしまいました。

 二度目はベルトの溶け代を見て長さをミリ単位で調整して、焦がさないよう慎重に溶着をしてベルトを作ります。

 また装着時に失敗しないように、ギアは6速にして後輪を浮かせて足で回し、クランクシャフトを回転させながら、タイヤレバーを使って少しづづプーリーにベルトをセットします。
エンジン正面から見たクランクシャフトプーリーとオルタネータープーリーにスリングベルトがきちんと装着されている写真
13)
通常のオルタネーターベルトと同程度の張力でセットできました。ベルトとプーリーの幅もちょうど良く、なかなかいい感じです。天塩から稚内までは道道106号線一本道で約70km、1時間程度もってくれればOKです。

 これを最後のチャンスとして、失敗した場合は、この場でバイクカバーに包まって一夜を明かし、翌朝、町の農機具屋さんに汎用ベルトを探しにいくつもりでした。それでもだめなら、契約しているメーカーのレッカーサービスで札幌のディーラーまで無料で搬送してもらうという最後のカードを使うつもりでした。

 しかし、稚内で到着を待っていてくれた仲間が救助にきてくれる事になりました。工具などを撤収し、出発準備をして仲間の到着を待つ事にします。
バイクの上に置かれた缶コーヒーと肉まんの写真
14)
既に作業開始から5時間経過し、途中修理に失敗する度にコンビニで買い食いしながら作業をしていたのですが、ついに午前0時の閉店時間になりました。

 作業をはじめる前に店の方に事情は話していた為か、店を閉めて帰る前に不憫に思って肉まんとコーヒーを差し入れてくれました。10月末の夜の冷え込みの中、温かいコーヒーと肉まんは身体に染み入る温もりです。日頃から北海道資本のコンビニであるセイコーマートを利用するように心がけていましたが、これからも感謝して利用させてもらいます。
明かりの消えたコンビニの前で小型トラックのボンネットを開けてバイクにバッテリーを供給している写真
15)
稚内の仲間が助けにきてくれました。

ありがたくセルモーターでエンジン始動します。このまま稚内まで伴走してもらい、もし途中で力尽きたら荷台に積んでもらう事にしにてすぐさま出発します。 エンジンが加熱する前に道道106号に入りトップギアで直線巡航運転に入り、代替ベルトに十分な冷却風を当てて熱破断を防がねばならないのです。
無残に溶け切れた最後の代換えベルトの切れ端の写真
16)
スタートして直ぐに赤信号に捕まってしまいました。交通量ほぼゼロの深夜の天塩町内で連続して赤信号に捕まってしまう不運。・・・クランクシャフトプーリーが加熱してベルトが溶け始めたらそれで万事休す。今までの例から旗門は約3分です!

 目の前に立ちはだかる赤信号に向かって声にならない声が、「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く・・・・・・・・・・プチッ!」「あ゛〜っ!」エンジンが止まりました。虚しく信号が青に・・・

 切れたベルトの裏側は溶けて黒く焦げていました。
小型トラックの荷台に積みこまれたバイクの写真
17)
天塩川歴史資料館の前でエンジン停止、
歩道の段差を使ってトラックの荷台にバイクを載せます。スタートからわずか数百メートルしか走れませんでした。

 考察すると、・・・空冷エンジンであること、ショートストロークエンジンである事・・ボア径が大きく受熱量が大きい・コンロッドが短い、4バルブ高回転型・・・アイドリングの混合比が濃い、インジェクションである・・・など等、このバイクは構造上クランクシャフトプーリーが加熱しやすい要素たくさんありました。 かつての古き良き時代の自動車の単純なVベルトのファンベルトだったら、ストッキングで代替修理が出来たかもしれません。
ガレージ内でバイクのスパイクタイヤの作成風景の写真
18)
18)翌日、無事スパイクタイヤを作成する事ができました。まばらに打たれたチップピンの間にダブルフランジのカップピンを打ち込み増しピンします。バリバリのアイスバーンでもがっちり食いつく頼れるタイヤの出来上がりです。

 ピン打ち作業しながら考えたのは、コードレスドリルの12ボルトバッテリーを使えば、数キロは走れたかもしれません。予備バッテリーも使って二度チャレンジすれば通常走行に必要な電力を把握出来るチャンスでした。
困っている人に声を掛ける人達
 コンビニの片隅で工具広げて修理をしていると、コンビニに買い物に来る様々な人が声をかけてくれました。

 つなぎを着た農家のおっちゃん、漫画立ち読みにーちゃん、若い子連れのママさん、そして町の農機具メーカーに部品を納入にきたトラックドライバーの方が、そこの農機具屋になら汎用ベルトがあるだろうから、朝になったら行ってみたらいいよと教えてくれました。

 そして朝一番で納品するために、向かいの空き地で仮眠するから、もしここで野宿するつもりだったら、トラックのシートで寝かせてあげるから、向かいのトラックにおいでと言って缶コーヒーを差し入れてくれました。
 それぞれに困っている人に手を差し伸べようとするやさしい気持ち、とどめは店の方の「電気点けておきましょうか?」「がんばってください」と温かい差し入れを頂く、わずか6時間の間にたくさんの思いやりを貰いました。

 そして最後はバイク仲間に助けられました。寒空の下、結局修理は完了しませんでしたが、気持ちは温かく得るものがたくさんありました。感謝感謝です。次は助ける立場に加勢します。
片言の日本語で声を掛けてくる人
 翌日バイクを積んだままのトラックで稚内市内の部品屋を廻って汎用ベルトを探しました。事情を話すと部品屋さんの倉庫に案内され、様々な在庫の中からベルトを探します。使えそうなベルトを見繕って、店を出ると・・・ 

 バイクを積んでいる車の周りに人だかりが出来ています。?ロシア人が荷台のバイクにたかっています。リーダー格の男と目が合いました。ロシア人・・・「いくらですか?」私・・・「売り物じゃないよ」買ってきたベルトをクランクプーリーにあててみてサイズを確認します。

 その間にもロシア人は・・・「いくらでですか?」私・・・「売らないよ」、と言っても言ってもしつこいロシア人、面倒になって私・・・「200万だ」と言うとロシア人はブツブツ言いながら去っていきました。

 様々な人に声を掛けられた二日間でした。(笑)

 バイクは金属とプラスティックで出来た単なる機械ですが、もし間違って心があったとしたなら、本当は売る気は無いけど人払いの為とはいえ目の前で売るとか言われたら、

 きっと気分が悪かっただろうな〜と、ぼけっと考えながら信号待ちで荷台を振り返ると・・・バイクは無言で遠くを見ていました。

 バイク仲間のガレージに戻って調達したベルトであっというまに修理完了!サイズは微妙に違いますが問題なく機能します。

 後に札幌に戻り、メーカー純正部品に交換しました。そしてこればかりは部品が無ければどうしょうも無い事が判ったので、はずしたベルトは予備としてベルトカバーにタイラップでくっつけておく事にしました。
もし次に切れたら5分で解決してやる! 
 現在地点===「燃焼室」趣味の部屋
55)ブラックスネークカモ〜ン
「燃焼室」に戻る
下の写真をクリックしても戻ります