崚平君へ
 
知床の自由研究とてもよく出来てますね、

そしてあらためて「羅臼岳登頂おめでとう!」

朝早くから暗くなるまでほんとうによくがんばったね、

でもね、君とお父さんを送り届けてお別れした後に、すこし厳しくしすぎたかもしれないなと思ってずっと気になっていたのです。でも送ってもらった作品を見て安心しました。君は全部吸収して一回り大きくなったんだね、

ものすごい風の中で三人でテントを被っておにぎりを食べた事
羅臼平の風の通り道を歩いた時、登山道わきの草むらまで吹き飛ばされていった君に気が付かないふりをしていた事、これは心が痛かったな、
頂上真下の最後の難関を突破する時、暴風(ぼうふう)の中で岩の陰に座らせた君に「やばいのわかるな?」と聞いた時の、黙ってうなづいたその真剣な眼差し
君が飲み水を飲み切った後、水を分けてあげずに水場まで我慢させた事
日が暮れて真っ暗になった山道を三人でヘッドランプの明かりを頼りに山を下りた事
そして痛い足を引きずりながらも君は最後まで自分の力で歩き通した事

まるで昨日の事のように今でもはっきり覚えています。

そして二日後に羅臼湖へトレッキングに行った時帰り道、疲れてしまった君が背中のリュックサックをお父さんに持ってもらっているのを見て、「あれだけの厳しい天気の中で羅臼岳に登ったのだから君はもう子供ではないよ、子供はあの厳しさには耐えられるはずが無い、もう君は子供じゃなく男だ、男は自分の荷物は人にもってもらったりしないぞ」
と言ったら、君はその場では「ぼくはまだ子供だもん〜」とおどけていたけど、湿布をたくさん張った足で歩きながらも、そのあと自分からリュックサックを背負っていたね、あの時ガイドの僕は嬉しくて思わず見えないようにガッツポーズをしていたよ、(笑)

自由研究を一生懸命作ったのに賞に選ばれなかった事はとても残念だったと思うけど、入賞作品を選んで決めている先生達は君のがんばりも根性も知らないのだから仕方が無いよ。あのときの君のがんばりを知っているのは君のお父さんとガイドの僕だけだ、僕は何百人も沢山の子供達を山に連れていってるけど、君のがんばりは間違いなく一番だよ。それは自信を持っていいよ。ほんとうによくがんばったね、

でも一つだけ約束してほしい事があります。君は頭が良いからわかると思うけど、君が風に吹き飛ばされて転がった時、それはとても怖かったと思う、もし自分がほんとうに危ないと思ったら迷わず引き返す勇気をもつ事、自分の身体は自分で守るんだよ。いつか君が一人で山に登る時がきたら必ず思い出してほしい

そしてもう一つ男として話した事を覚えていてくれたら嬉しいな、


崚平君へ       北海道の山ガイドより