1234567890 その十
トラブルの神様 
 トラブルの神様は起きて欲しくない場面を狙い済まして恵みを与えたもうのです。(笑) ・・・とても大切な北海道ガイド役をしなければならない3泊4日のツーリング二日目の朝、トラブルの神様は微笑みました。。。
 北海道ツーリング二日目の朝、晴天の光を浴びて十勝川温泉を出発して国道242号線を順調に北上していました。・・・その時、さりげなく・・・ABSインジケーターが点滅し始めました。・・・ん?それは回路電圧がある一定の限界値より下がったため、ABSが作動する事が出来ない状態である事を知らせています。あれっ?小1時間ほど前、朝の出発の時は問題なくセルモーターを回して始動していたバッテリーが今や限界電圧を下回っている。。。

 走行中に急速に電圧降下が起こっているとしたら原因は・・・「オルタネーターベルトの切断」だ、少し早い気がするものの、既に前回の切断より、もう切れてもおかしくない距離を乗っている、たぶんベルトの品質のばらつきで早めに寿命がきたのだろう・・・と考えて、エンジンを押し掛け出来そうな広さのある足寄町のガソリンスタンドに入りました。

 給油の後、確認の為セルモーターでエンジン始動を試みますが、まるでダメです。バイクを端に寄せてオルタネーターベルトカバーを外しにかかります。こんな事もあろうかと予備のベルトは準備済みです。交換するのは雑作もありません。

 ところがカバーを外して現れたのは適正に張られて仕事をしている元気なオルタネーターベルトでした。。。。そうなるとオルタネーターの構成部品であるカーボンブラシの消耗が怪しくなってきます。しかしそれを確認するのは簡単にはいきません〜・・・3)に続きます
オルタネーターのカバーを外して中が見える状態の写真
1)
 これはオルタネーターという部品です。自動車のエンジンに取り付けられていて車が使う電気を発電するのが役目です。写真はカバーを外して背面から見た図です。黒い整流器盤に囲まれるように真ん中にローターコイルの軸があり、それに接するように逆T字型に白いカーボンブラシホルダー一体型のレギュレターアッセンブリーが見えています。

 「オルタネーター」という名前はオルタネーティング カーレント=交流電流 からきています。三相交流電力を発電して、半導体の整流器で直流電流に変換して直流の電力を供給しています。

 発電する仕組みは本体ケース周囲に内向きに固定されているステーターコイルの中心部に自由に回転できるローターコイルを配置した構造になっています。外部からローターコイルに電気を流して磁界を発生させて、それをくるくる回して周囲のステーターコイルに磁界を作用させてフレミングの右手の法則によってステーターコイルに電力を発生させます。

 特徴としてはローターコイルに流す電流をコントロールすることで、効率よく発電量を制御できます。
オルタネーターブラシとスリップリングの拡大写真
2)
 発電効率の良さから殆どの自動車のエンジンにはオルタネーターが採用されています。しかしバイクなどには構造が簡単で安価な永久磁石を使って発電させるダイナモ発電機が使われています。ダイナモ発電機では余剰発電電力を捨てる事で発電量をコントロールしています。そのため耐久性がやや乏しい傾向にあります。

 左の写真は回転するローターコイルに電力を供給している部分の分解拡大図です。中央の丸い二段の軸状の部品がスリップリングというローター側の電極です。写真上方からクワガタの角のように四角い2本の棒が突き出しているのがカーボンブラシで本体側の電極です。

 この二つの電極(カーボンブラシとスリップリング)間の接触が悪くなるとローターコイルに供給される電力が不足し、結果発電力が低下してしまいます。
トラブル現場で外したブラシとオルタネーターの写真
3)
 ガソリンスタンドの片隅でオルタネーターからレギュレターアッセンブリを取り外します。先端のカーボンブラシを点検すると損傷も無く思っていたほど摩滅もしていません。ブラシを押し出すスプリングも正常に機能して動きもスムーズです。

 外したレギュレターアッセンブリーをオルタネーターに仮組して押してみると、カーボンブラシはスリップリングにしっかり押し付けられています。周囲の電装系の配線やコネクター類も点検しますが、特に異常はありません。
トラブル現場でオルタネーターブラシを応急的に研磨清掃している写真
4)
 消耗しているはずのカーボンブラシですが、まだ十分に長さがあるように見えます。

原因を想像するに・・・既に走行磨耗がかなり進んでいた所に前日の雨天時に道路工事作業区間を走行した時に粘土質を含んだ泥水の飛沫を浴びた事等で、カーボンブラシとスリップリング電極の接触面の汚れが一気に進んだために、急速な発電不足になってしまった・・・ということにしておいて、

 カーボンブラシ接触面を研磨清掃して、スリップリングを清掃して組みなおしました。全速力でバイクを組み立てなおしてエンジンを押し掛け始動させます。一回でエンジン始動!すぐに電圧を調べるとアイドリングの回転数でも発電している事が確認できました。ほっと一安心、応急修理完了です。でも1時間弱のロスタイムをしてしまいました。
バイクの燃料タンクを外して上から写した写真
5)
 旅先から帰還して、根本的な修理に入ります。下の方の左右にエンジンシリンダーがあり、中央部にはメインコンピューター、ABSユニット、そして中央部上にオルタネーターとレギュレターアッセンブリーが見えています。ここはふだん燃料タンクに隠されている部分です。
千切れたオルタネーターカバーの中にレギュレーターが見えている写真
6)
 どうしても急いで解決する必要があったので、狭い作業空間の中でレギュレターアッセンブリーを取り出す為に、オルタネーターカバーを部分的にカッターで切開する荒療治をしたものでした。
カバーを外して背面が丸見えのオルタネーターの写真
7)
 )レギュレターアッセンブリーを取り外し、切開されたオルタネーターカバーも取り外した状態です。整流器盤(ダイオードボード)とローターコイル軸のスリップリング電極が見えています。スリップリングは12万キロの走行によって相当汚れています。これでは接触不良がおきてもおかしくありません。

 本来はオルタネーターを車体から降ろして整備するものですが、このバイクの場合、ABSユニットを取り外さないとオルタネーターは着脱できません。ABSユニットはブレーキの油圧をコントロールする装置ですので、取り外すにはブレーキの油圧配管を外す事になります。それはとてもとても面倒な事なので、そうしないように、工夫して搭載状態のままで車上整備をしています。
真鍮ブラシを金切りノコで切っている写真
8)
 狭い空間でスリップリング電極を研磨するために真鍮ブラシを加工してスリップリング研磨用ブラシを作って作業します。
真鍮ブラシでピカピカに磨かれたスリップリングの写真
9)
 オルタネーターカバーを外してオルタネーターベルトも外してオルタネータープーリーを手で回してスリップリングを回転させます。そこにスリップリングに専用研磨ブラシを垂直に押し当てて少しずつ電極を研磨していきます。最後は研磨材を使って仕上げると・・・このようにピカピカになります。
オルタネーターカーボンブラシの拡大写真
10)
 カーボンブラシはあまり摩滅しているようには見えませんむしろ十分な長さがあるように思えました。スリップリングの汚れが酷かったのでそれが発電不良の原因だろうという事にして、しっかり研磨、清掃してもう一度様子を見ながら使ってみる事にしました。
レギュレターアッセンブリーをオルタネーターに組みつけている写真
11)
 ここは近々にまた開ける事になりそうなので、次に作業する時に素早く着脱出来るようにオルタネーターカバーを分割して取り付けます。
オルタネーターに細工をしている写真
12)
 蓋を被せてタイラップで固定します。これでカバー全体を外す事無くレギュレターアッセンブリーの着脱ができます。ABSユニットの配管にも余計な負担を掛けてずに済みます。
オルタネーターベルトをタイヤレバーを使って張り替えている写真
13)
 まだ使えるはずですがオルタネーターベルトも交換します。前回は約7万キロで切断しています。それから約5万キロ走行しているので、まだ2万キロは使える計算になりますが、今回オルタネーターに不安要素を一つかかえる事になるので、こちらの不安要素はつぶしておきます。

 はずしたベルトと新品ベルトでは見た目に多少汚れている位の違いしかわかりませんが、内部構造の強度が落ちているはずです。

 このバイクは整備書によるとオルタネーターベルトを張る時は専用工具を使って正確な張力管理をするように指示されています。しかし手元に専用工具ありませんが、ちょうどタイヤレバーが良い感じで使えます。新品ベルトなのでタプタプよりバンバンぎみに張っておきます。
オルタネーターの細工した蓋を開けてレギュレターを取り出している写真
14)
 組みなおした当初はほぼ完全に性能は戻っていましたが、3千キロ程走った段階でまた発電不足に陥ってしまいました。やはり根本的な修理が必要です。今回のトラブルでは簡単な応急修理でもしばらく走れる事がわかりました。

 早速細工したオルタネーターカバーの蓋を開けてレギュレターアッセンブリーを取り外します。
やや汚れたスリップリングの写真
15)
 スリップリングは既に汚れていました。考えるとバイクをドロドロにした時に丁寧に洗車機をかける事が、泥の飛沫を機械内部に押し込める事になっているのかもしれません。
汚れたスリップリングをきれいにするために使う道具の写真
16)
 オルタネーターカバー本体を外さないと、前回作って使用したスリップリング研磨ブラシは使えません。しかしそれはABSユニットの配管に無理を掛けることになるので別の方法を考えます。

  手持ちの道具で考えてみて、クロスカントリースキーのチューンナップに使う研磨材が活用できました。
車上整備でオルタネータースリップリングを研磨している写真
17)
 狭い隙間の中にあるスリップリング電極に柔軟な研磨材をプラスティックレバーで押し付けつつ、オルタネータープーリーを手で回して電極を研磨します。
きれいに研磨されたオルタネータースリップリングの写真
18)
 研磨材の番数を変えつつ作業するときれいに研磨できました。簡単確実安全なこの手は現場での応急修理に使えそうです。
ボルテージレギュレターアッセンブリーの全容写真
19)
 スリップリングの研磨清掃が終わったら、新品のカーボンブラシに交換したレギュレターアッセンブリーを取り付けて完成です。
カーボンブラシのおまけ
 今回オルタネーターの着脱にはABSユニットを取り外す必要があることが解りました。今後オルタネーターのベアリングが壊れて発電不足に陥った時には、簡単には修理出来ない事がわかりました。どこまで使えるのか?といった興味もありますが、頃合を見て交換しておく必要がありそうです。しかしABSユニットは一番触りたくない部分です。いずれにせよ始業点検項目が一つ増えました。
「124567890」の目次に戻る
下の写真をクリックしても戻ります