16) リハーサルその三
 三回目のリハーサルです。
 六月中旬に十日間の日程で行なった三回目のテスト走行は、以前のリハーサルからわかった事を考察しての最終的な実走行に近い内容のリハーサルになりました。
 当初の予定では、このリハ―サルは6月9日から6月27日までの19日間の日程で行ない日本一周マラソン約6000Kmのうちの六分の一にあたる1000Kmの一気走破を行なって、実際の長期連続マラソンの感覚をつかむという目的がありました。

 しかし、スタート間近になって、事情が許さずに日程を大幅に短縮して行なう事となり、スタート地点も宗谷岬からではなく、オホーツク海岸を120Kmほど下った所にある「北見枝幸町」よりスタートして、途中佐呂間町にて「サロマ湖100Kmウルトラマラソン」に参加してさらに距離を伸ばし、旭川を経由して砂川まで走るという行程で行われました。 
6月16日から24日までの9日間で約470Km走行しました
 一日目)札幌より今回のリハーサルの出発地点である、北海道のオホーツク海岸北上にある、「北見枝幸町」に車での移動をしました。
 当初計画では、本番のスタートと同じく「宗谷岬」よりのスタートを予定していましたが日程の都合上かないませんでした。
 
 二日目)北見枝幸町より興部町まで
       60Km程度の交通量もアップダウンも少ない海岸線を走行
 三日目)興部町より中湧別町まで
      50Km程度の交通量もアップダウンも少ない海岸線を走行
 四日目)中湧別町より浜サロマまで
      50Km程度のアップダウンの少ない道を走行
 五日目)休養日
 六日目)サロマ湖100Kmウルトラマラソン大会参加
      (サロマ湖畔一周マラソン大会)
 七日目)浜サロマより留辺蕊町まで
      60Km程度のアップダウンのある丘陵地帯を走行
 八日目)留辺蕊町から層雲峡まで
       60Km程度の交通量の多い峠越え山道の走行
 九日目)層雲峡から旭川市まで
      60Km程度の交通量の多い峠越えを下る山道の走行
 十日目)旭川市から砂川市まで
      50Km程度の走行交通量の多い街中と郊外の走行
 1.1)既に長距離を連続的に安定して走り続ける事が出来るという実績に基づいての計画で、特に走行に関しては不安要素の少ないリハーサルになりました。

 1.2)リハーサルの中に100Kmウルトラマラソン大会参戦も含ませているのがユニークなところですが、前回のリハーサルで、100Km以上の距離を走っても次の日も走行可能であるという事が判っているために長距離継続走行に対しての不安な部分はありませんでした。

 1.3)ペース的には二回目のリハーサルそのままの感じで毎時8Kmの走行ですが、
  ランナーの最終的な希望により給水タイミングは1500m間隔になりました。
 2.1)使用車両はマラソン号(ハイエース)とアフリカツイン(私個人の所有バイク)です。
前回のリハーサルで大型スクーターは熱によって途中で壊れてしまい、その後のサポートに大きな支障をきたしてしまいましたので、今回はどの程度バイクが耐えるのかといった事を把握する重要な最後のリハーサルでした。

 2.2)バイクはあえて熱対策をせずに、ノーマルのままでの耐熱性をテストしましたが、もともと「アフリカツイン」というバイク自体が、砂漠の横断レース用に開発されたバイクゆえに熱には強くできていていてくれたお陰で機械的に壊れるような不安な部分は無く、サポートしていく事ができました。

 6月とはいえ北海道の初夏は気温は低く朝晩は10度を下回る寒さの事も普通で日中の最高気温も20度に届かないこともあります。そんな寒冷な状況下での使用の段階でもし熱対策が必要であるとすれば、それは真夏の本州の暑さに耐えうるものではないとの結論がおのずと導き出されます。
解決が難しい問題
 2.3)雨天時の後続車両に浴びせられる泥しぶきによってバックミラーが見えなくなる問題は、この段階では対策無しでのサポートになりました。
 運良く雨には当たりませんでしたので問題は発生しませんでしたが、本番までに対策を立てなければならず、また、それはリハーサル無しのぶっつけ本番になってしまうという厳しい課題でした。 
 2.4)今回マラソン号には車搭載可能なガス冷凍冷蔵庫を装備してテストしました。
12ボルトの車のバッテリーより電源を取り、冷却が可能なスエーデンのエレクトロラックス社製スリーウエイ電源のポータブル冷凍冷蔵庫です。
 
 これは家庭のAC100ボルトと車のDC12ボルト電源とカセットガスボンベを使用できるタイプの製品で、カセットガス一本で約24時間冷却可能、電気では約100ワットの消費電力で冷却します。容量は約30リットルで、アンモニア集熱式の冷蔵庫です。
 
 小型ながら、庫内冷却ユニットの上では氷を作ることが出来るほどの冷却能力があります。

 2.5)車載使用時には約10アンペア消費しますので、走行中以外は止めておく事になりますが、十分な冷却能力があり、朝に電源を入れて使用を開始しても十分冷えて使える事がわかりました。

 当初はエンジンを止めている間はガスを使って冷却する事も考えていましたが、 密閉した車内でガスを使う事は出来ないということで、一度テストしただけで終わりました。また、一日の行程終了後に、一緒に宿に上げて、夜通しAC電源であらかじめ冷やしておくという案もありましたが、中身を詰め込んだ冷蔵庫の重さから考えて、物理的に無理がありました。
構造的な強度不足
 2.6)一つだけ問題点があったのは開閉式の上ふたの止め方に構造的な強度不足があり、本番使用間もなく止め具が破損してしまったという事ですが、構造が単純な作りゆえに簡単な補強だけでそのまま使用に耐えました。

 また頻繁にふたを開閉する事によって冷蔵庫内の冷気が逃げてしまい中身が温まってしまうので、中身の上にタオルをおいてふたをする事で冷気の逃げをある程度防ぐことが出来ました。

2.7)¥60000程度の定価の商品ですが、ホームセンターの特売で、¥29800で購入する事ができました。

 2.8)本番では、もう一つ一般的な30リットル程度のクーラーボックスを併用しました。
 3.0)このリハーサルでも無線は活躍しましたが、フリーハンド通話の仕組みが、汎用のタイプの私物の流用だったために、走行中の会話ではマイクの風切り音ノイズが激しく、厳しい条件下での使用では、専用に作られた製品の使用が必要との結論に達していました。
道中、サロマ湖100Kmウルトラマラソンに参加しました
 4.0)途中のサロマ湖100Kmウルトラマラソンに参加することで、他の100Kmランナーの走り方を見ることが出来たのはいろんな意味で参考になりました。
 当初ランナー澤本さんは、30分間隔の給水を希望していましたが、その理由がこの大会にありました。給水ポイントが5km間隔で設置されているという事は、その間の走行時間は約30分になります。

 また、給水時に食べるものに関しても、この大会の給水ポイントに用意されているものに由来している食料が多々ありました。(梅干・飴玉・チョコレート・チーズなど、)

 1回目のリハーサルでは30分間隔での給水をしていましたが、徐々に間隔が短くなり、最終的には1.5Km間隔の給水になりました。時間にして約10分間隔の給水なります。



 通常マラソンなどの長時間の持久力を持続させる運動では、スタートしてからある程度の身体の暖気期間の後には、一定のペースで脈拍を維持し続けるのが一般的ですが、10分間隔で休憩を繰り返すやり方はランナー澤本さん独自のものでした。

 当初いろいろと給水のタイミングを試して見て、一番合った方法を探っていましたが、1.5Km間隔に落ち着くとは思いませんでした。片田舎の道なら問題ありませんが、特に都市部や、路肩に駐車スペースが無い海岸線など、正確に安全に、そして交通の妨げにならずに1.5Km間隔の給水をするのは簡単な事ではありませんでした。

 100Kmマラソンの参加者の中には、100Kmを5時間台で走りきる選手もいて驚かされました。

 サロマ町の民宿「村岡」さんにはたいへんお世話になりました。そこで出会った方々には励まされ、各地で伴走していただくなど、力を沢山いただきました。
3回目リハーサル全体を通して
6000Km走り切る事は可能であるとの確証を得たリハーサルでした。

 5.1)途中通過地点の待ち合わせ時間や、到着時間制約等の無い状態での走行ですから、ペース配分も自由度が広いわけで、苦しいところがあまり無いリハーサルを繰り返している訳で、本番の制約の中でのマラソンという実際の走行にたいする準備が出来ていないのでは?という漠然とした不安がありました。
 5.2)宿は、一部を除いて実際に走り終える地点がわかってから、その周辺で探すという方法で決めていましたが、安くて良い宿に当たることもあれば、恐ろしい宿に当たる事も有り、不安定要素でした。

 この場合の良い宿とは、
 a)シャワーが有る事、もしくは4人以上が一度に使える大きさの風呂が有る事、
 b)ランナーの使う部屋に椅子が有るという事、
 c)食事が出来るという事、(到着が遅く、出発が早いため、)

 今回のリハーサルであった出来事の中での「恐ろしい宿」というのは後の裏話の章で紹介します。
協賛のお願い
 5.3)実際の伴走バイクを決定する最後のリハーサルになっていましたが、「アフリカツイン」にほぼ決めていましたが、今ある自分のバイク(旧式のアフリカツイン)を改造したのでは、過酷な連続使用における信頼性に欠ける部分が否めないので、万全を期すために個人的に新車を購入するつもりでいました。

 前回のリハーサルを終了した段階で、必要機材についてはスポンサー活動をしても良いというマラソン本体に確認了解の上で、本田技研さんにアフリカツインの協賛のお願いを出していました。今回のマラソン伴走任務を可能にするためにはをどうしても該当バイクは一台しかなく、個人的に購入するので、直接安く出していただけないだろうか?といった内容の手紙を出していて、返事待ちの状態でした。
 他にもマラソン本体確認の上で、通信装置の「ケテル」さんや、ヘルメットメーカーさん、無線機メーカーさん、などに協賛のお願いの手紙を出していて返事待ちの状態がありました。
 
 さらに、携帯電話の会社に通信面でのバックアップをもらえないだろうかという打診や、家電メーカーにパソコンの協賛依頼をしたりと、流動的な状況でした。
 
 また、企画の存在を、「ミスターバイク」というバイク雑誌の編集部に報告して掲載してもらえる事になりました。
 5.4)リハーサル前日には、枝幸町の宿にて、打ち合わせを行ない、その中で、今後のマラソンのインターネット中継について、旭川の「おんたけさん」を講師にメールでの画像の送信方法などをテストするなどしました。

 5.5)リハーサル初日は、枝幸町役場前で町長始め役場の職員の方々や、町内の方々の参加するスタート式典に見送られての出発になり、これが最初のスタート式典のリハーサルになりました。

 5.6)初日は「おんたけさん」をはじめ、旭川のかがやき工房の方々が、インターネット関連のテストを繰り返していました。

 5.7)旭川市では「かがやき工房」を訪れて、作業の様子を見せてもらいました。
 6.0)リハーサルも終盤にさしかかった頃、もっとも恐れていた事態に直面しました。それは後の非常事態の章で報告します。
 6.1)都市部の通過の際には、マラソン実行部隊の車両のほかに地元車両が多数伴走することで、無用の交通渋滞や、事故の危険を招きかねないという事が現実問題として起こって来ました。
下心有りの前振り
 6.2)北見枝幸町はマラソンスタッフ「のりべー」こと、阿部重宣くんの暮らす町でした。このリハーサルの段階ではまだ、マラソンの話の内容を話しただけで、よもや彼自身にサポート依頼があるとは思ってもみなかった状況でした。
 6.3)砂川駅にゴール後に、近くの蕎麦屋で蕎麦を食べての解散になりました。
 6.4)この段階では、あと一回最終リハーサルを行なう予定でいましたが、後にそれが叶わず。これが最終リハーサルになりました。

 あとは本番のスタート後、サポートを受けられる札幌までの1週間の間が実質の最後のリハーサルでした。
=== 16) リハーサルその三 ===
17)非常事態・・・・・・・・・・
15) リハーサルその二
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