92)ロアアームボールジョイントの煮込み
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車のメンテナンス情報です
 深夜の路上で「ロアアームボールジョイント」という車の部品をコトコト煮込む事になりました。それは鋼鉄なので煮ても焼いても食べられるものではありません。(笑) なぜそんな事になったのか? 車検を通すための整備をしていて、「へま」をやらかしたのが原因です。

 自動車のタイヤを支える部品の可動部分(ボールジョイント)を取り外す時に、間違って潤滑するための油脂を封入しているゴムの部品(ラバーブーツ)を傷つけてしまいました。通常は交換する所ですが、時間的に間に合わないので接着剤で修理して、硬化時間短縮の為に煮込むという手を使いました。
ボールジョイントの煮込み写真
1)
 ロアアームボールジョイントの煮込み。レシピはロアアームボールジョイント×1個、高性能接着剤大さじ一杯、水800cc、途中で水を足しながら中火で2時間程煮込んで出来上がりです。正確には高温の水蒸気で蒸し上げる感じです。 
リアブレーキキャリパーのエア抜きの写真
2)
 今回の車検整備ではブレーキキャリパーをアッセンブリで交換する事になったり、ドラムブレーキの分解清掃とシューの交換をするなど、ブレーキ関係のメンテナンスに手が掛かりました。 もっとも車齢も12年を越えて18万キロも走ればあちこち不具合が出てきてあたりまえです。 ところが、しっかり点検整備したつもりが重要な部分を見落としていました。
検査ラインの写真
3)
 整備が完了して検査場(陸運支局)に持ち込みます。外回り検査でハイマウントストップランプの電球の一部不点灯を指摘されましたが、まだ午前中なので電球を交換すればすぐに解決する事です。検査ラインに入って排気ガス検査、サイドスリップ、スピードメーター、フットブレーキ、サイドブレーキ、ライト光軸、検査ラインに沿って順調にクリアしていきます。
破れたドライブシャフトブーツの写真
4)
 しかし検査ライン最後の下回り検査で引っかかりました。検査官に呼ばれて検査ピットの階段を下りていくと、フロント左ドライブシャフトブーツが切れている事を指摘されました。「あらら〜これは完全にイってますね(笑)」と点検の甘さを照れ隠し、

 検査官は「今日中に直しますか?」と聞くので「これから部品を買いに走って修理にかかるので、今日のものにはならないです。」と答えると「それでは限定車検証を交付してもらって下さい」との事、限定車検証ってなんだろう?いままで20回以上は車検を通してきて初めて聞きました。
限定車検証(その1)の写真
5)
 書類を持って窓口で交付を受けると、限定車検証は車検不適合箇所について車検証の満了する日までに整備を行うことを条件に、車検を受ける為の車両の運行を限定的に延長して認める車検証の事でした。

 限定車検証には(その1)と(その2)があり、(その1)は通常の車検証と同じく車両の型式など諸元や登録に関する情報が記されています。(その2)はその車両の車検不適合箇所の詳細が示してありました。
新品ドライブシャフトブーツとドライブシャフトの分解図の写真
6)
 早速部品共販に行って必要な部品とその分解図のコピーをもらって、修理の準備を整えます。本当は汎用品を使った方が安く上がりますが、今回は作業を確実なものにするために純正部品を使いました。
左フロントタイヤ取り付け部の分解状態
7)
 左フロント部の分解状態です。手前に横たわるのがハブが付いたままのナックルアッセンブリ(アッパーボールジョイント付き)、奥の車体から左手前に伸びるのが舵取りタイロッド、右手前に伸びるのがドライブシャフト(先端に軍手が被せてある)、右奥に車体に縛り付けられたブレーキキャリパーがあります。

 車体中央から手前下に伸びるロアーアームの先端に付いているロアアームボールジョイントは修理の為に取り外されています。
なまらまぶいボンド
8)
 近年様々な新型接着剤がホームセンターなどに並ぶようになりました。それぞれメーカーが違ってもそのパッケージには、「スーパー」 「ウルトラ」 「超」 などの接頭辞がたくさんついているのが特徴です。 そういった語句を北海道流にまとめて「なまらまぶいボンド」という愛称で呼んでいます。

 「なまらまぶいボンド」様は金属部品からゴム製品や破れたバイクウエァー等の繊維製品まで何でもござれの頼れる万能選手です。
ロアアームボールジョイントブーツになまらまぶいボンドを塗布した写真
9)
 この万能接着剤は柔軟な素材に対しても強力な接着力を発揮します。硬化後も柔軟性を保つ性質があり、ゴム製品の修理に向いています。一般的な瞬間接着剤のように空気中の水分によって硬化する性質があります。そもそも瞬間接着剤のように速く硬化しますが、今回は肉厚に盛って修理したので硬化にやや時間がかかる事を見越して、高温の水蒸気を当てる事で硬化時間の短縮をしました。

 これは素材を脱脂してヤスリで表面を荒し接着剤を盛り付けて形を整えた状態です。このまま鍋に入れて煮込み硬化を早めます。
ダストブーツを取り外し内部が見えている等速ジョイントの写真
10)
 煮込みを作っている間に本来の目的作業ドライブシャフトのブーツを交換します。これはフロントデファレンシャルギアで左右に分割された出力を車輪に伝える為の出口になる部品「等速ジョイント」です。フロントタイヤは舵取り装置によって回転軸の向きが変わるので、向きの変化を許容するための「等速ジョイント」が内側と外側の二箇所で一組が使われています。

 これは内側(デファレンシャル側)の等速ジョイントです。ここの保護の為に付いているブーツが破れてしまったものを交換するのがこの作業の目的です。すでに破れたブーツは切り開き取り除いて、中身の等速ジョイントがむき出しになっています。

 この等速ジョイントは六つのボールベアリングによって中心軸を支える事で回転軸の向きの変化を許容しています。 ボールの飛び出しを防ぐCリング(シーリング)を外す事で、ハウジング(外側の入れ物)からシャフトを抜く事が出来ます。
分解清掃した等速ジョイントのハウジング
11)
 等速ジョイントを分解して引き抜き、ハウジングを清掃した状態です。中にCリングの切り欠き位置を示す打刻があります。取り外し前にマジックで付けておいたマーキングと一致しています。
左フロントドライブシャフトの写真
12)
 取り外したドライブシャフトです。等速ジョイントの中身は灯油に浸してきれいに洗油した後脱脂して炙って乾かしてあります。これから新しいドライブシャフトブーツを入れて組みなおします。
修理完了したロアアームボールジョイントの写真
13)
 ちょうど煮込みも完成して組み立て開始します。
ロアアームボールジョイントの組み付け状態
14)
 パンク修理のパッチを張ったような形になりましたが、硬化後も柔軟性を保っていて、小さな傷を完全に塞いでいます。
ナックルアッセンブリを取り付け作業
15)
 今回ナックルアッセンブリを取り付ける際に、それはとても重い部品なので、片手で持ち上げて、片手でナットを締めるといった芸当が困難です。そこで膝にバイク用の丈夫なニーパットを装着して、両膝で重いナックルアッセンブリを挟み込んで足の力で持ち上げて、片手で位置を決めつつ片手でナットを閉めるという段取りで行った所スムーズに取り付けが出来ました。
限定自動車検査票
16)
 整備が出来たら陸運支局に車を持ち込みます。通常は「自動車検査票」で行う車検の所を「限定自動車検査票」という車検不適合箇所限定の検査票で受検します。
球切れした制動灯と新品部品の写真
17)
 確実に整備したつもりが、この期に及んで制動灯の球切れです(笑) 今回は午後の最終組の受験だったのでもう時間が有りません! 陸運支局に車を停めたまま、隣の車のディラーまで電球を買いに走って、なんとか検査時間内に合格を貰いました。
臨時運行許可証の写真
18)
 最初の受験に不合格だった時点で既に車検満了日直前だったので、臨時運行許可を取っておいたのですが、実は限定車検証をよく読むと、これは必要ない手続きであった事が判明しました。 「書類は良く読みなさい」との¥750の勉強料でした(笑)
 実はこの車検では、一度落ちた後、即部品を揃えて修理を試みたのですが、ロアアームボールジョイントとナックルの分離に失敗して、キャッスルナットのねじ山を崩し、ロアアームボールジョイントのねじ山を一部傷め、ブーツに傷を入れてしまったものです。

 そしてさらに、ロアアームボールジョイントとナックルの分離を諦めて、その根元のロアアームとロアアームボールジョイントを分離して、ナックルを取り外そうと試みたものです。ロアアームボールジョイントを固定している4本の強化ボルトを緩めて、うち2本は取り外す事ができたものの、アウター側の2本がドライブシャフトに干渉してどうしても抜く事ができません。ジャッキを使ってサスペンションアームを上下させて交わそうとしても、寸前の所で叶いません。

 そうこうあがいているうちに、強化ボルトのねじ山を傷めてしまったり、関係ないところまで変形させてしまいそうになり、あわてて作戦を変更するという冷や汗もかいていたりします。

 そして結局高い工具を買い足したり、新しい部品を買ったりで切り抜けましたが、ユーザー車検としてはあまり安く上がっていません。 それでも自分でやってみるのが面白い。自力で考え工夫して突破するのが面白い。
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