17) 非常事態
 危ない事、事態は日常茶飯事なので、いちいち気にしていられないのですが、中でも印象に残った事件をいくつか紹介してみます。
a)リハーサルのダンプ事件
 三回目のリハーサルの終盤の走行中の出来事でした。
北海道の大きな都市間を結ぶ比較的交通量の多い主要幹線道路、歩道は無く、路側も路肩も狭く、歩く人間の存在は無いものとして作られた車道だけの道がマラソンコースになりました。

 路肩まで木々が迫る森の中の一本道、周辺数十キロにわたって民家や建物は有りません。
何も無い道だけに通過車両は一応に飛ばしていきます。 北海道の郊外の幹線道路では、70〜80Km/h程度の速度で走行するのが当たり前になってしまっています。
郊外を走るドライバーの行動
 また、見通しの良い直線区間などでは、多少の無理をしてでも、遅い車両を追い越していく車が見られ、危険な状態を作り出していました。遅い車両とは、法廷速度少しオーバー程度の速度です。(70Km/h程度)


 路側をひた走るランナーとその後ろを守る伴走バイクのチームがゆっくり進んでいきました。
ランナーを追い越していく際に車はある程度安全な距離をとって通過していきます。
路側が狭いために、安全な距離を保つには普通乗用車でもセンターラインをまたいで走らなければなりません。


 何も無い郊外の一本道を気持ち良く飛ばしていた車が、路肩をゆっくり走っている大型バイクとマラソンランナーを発見します、すると一瞬減速し、対向車が来ていなければ、センターラインをまたいでランナーとの距離を十分とって、追いぬいていきますが、(1・5〜2m以上)

 ランナーが時速8Kmに対して追い越し車両は時速50〜60Km程度、速度差40〜50Kmです。ランナーと車両の距離は1.5 M〜2M程度開けて走り去っていきます。

 その時、対向車が有る場合には、追い越し車両はブレーキをかけて減速し、ランナーの近くを通過していきます。その場合はセンターラインに寄ってはいるものの、対向してくる車の方にプレッシャーを受けてしまい、ランナーとの距離が少なくなります。

 その距離1M程度、ただその場合ほとんどの車はかなり減速して通過していきますが、(時速40Km以下)中には流れのままの速度で通過していく車もありましたが、逆に極端に減速して、対向車をやり過ごしてから追いぬいていく慎重な車両もありました。
 ここで危険な要素は三つあります。

 一つ目は、対向車と後続車とランナーが同一線上に並ぶタイミングですれ違う事。
 二つ目は、車両運転者がランナーの存在を認識するのが遅れる事。
 三つ目は、無謀運転をする車両にぎりぎりを追い抜かれる事。

 郊外の幹線道路では、通過車両は数台程度で固まって走っている事が多いでのですが、それぞれが、すれ違うタイミングはまちまちで、路肩を走るランナーと絡んで、時にはとんでもない危険な状態になる事があります。
タイミング悪く危険な状態に陥った
 中ほどに11トン大型ダンプカーを含んだ乗用車数台の集団が後方より追いついてきました、丁度その時対向車線にも、大型車を含む数台の集団が接近してきていました。

 対抗車線の先頭車両の乗用車は、状況を見極めて路側によってくれていました。
それに続く後続の車両もそれに従い路側に寄って接近してきました。

 対するこちら側の後続車両は先頭の乗用車は大きく減速し、慎重にわれわれを追い抜き始めました。
 1台、2台、3台、と大型ダンプの順番になりました。ここで対向車がぜんぶ通過完了しました。砂利を満載したダンプは極端な減速を避けるため、あらかじめ対向車との間合いを見て早めに減速して一定の速度を保ち、対向車の通過と共に大きくランナーとの間隔を取って安全に追いぬこうとしていました。ダンプの後ろには2台の乗用車が続いていました。

 そこに、ずっと後ろの方から、集団と離れた一台の白いライトバンが高速で接近してきました。
ライトバンは減速せず、ダンプを先頭にスロー走行する集団を一気に追いぬこうと対向車線に出て、加速してきました。ライトバンにはバイクもランナーも見えていません。

 ダンプがランナーの横を通過するために対向車線に大きく膨らむタイミングと、ライトバンがそこを通過するタイミングが一致しました。もはやブレーキで回避できる状態ではありません。
ダンプカーに選択肢は二つ有ります。
 1)対向車線にはみ出さずに、ランナーのすれすれを抜いていく、(その距離数十センチ)

 2)追いぬき車両をはじき飛ばしてしまう事を覚悟でランナーとの安全距離をとって対向車線にはみ出す。
 一瞬の判断で、ダンプは2)を選択して大きく警笛を鳴らしながら、ランナーとの安全な距離と、追い越しをかけてくるライトバンの通過できる隙間を残した、微妙な走行位置で通過していきました。

 行く手を塞がれたライトバンは急ブレーキをかけつつ路側の草むらに方輪つっ込む所までハンドルを切ってぎりぎりダンプをかわして、路外転落も免れて通過していきました。

 われわれと十分な距離を開けて、追い越しさまに、警笛を鳴らし続けながら通過していく大型ダンプに、状況の判らないランナーは、「クラクションで声援をもらったと思い」手を上げてそれに応えていました。バイクの私も、ダンプが通過して順車線に戻った所で大きく手を上げてダンプのミラー越しにドライバーに手を振りました。さすがはプロドライバー、的確な状況判断です。

 大型車に勢い良くすれすれを抜いていかれると、歩行者などは吸い寄せられてしまいます。大型車のタイヤに巻き込まれたら命は有りません。

 私は前後の状況を把握していますから、とっさの時には、路外の草むらから土手下に逃げ込めばいいのですが、それではランナーはまともに轢かれてしまいます。 かといって「危ないですよ」と声をかけて対処できるような悠長な時間は有りません。祈る事しか出来なかった自分がはがゆく、緊急事態の際にはどうするかを明確に決めておく必要があると痛感した瞬間でした。

 事か終わって、心臓のバクバクが収まった頃、止まっているマラソン号に合流して給水になりました。
ランナーの澤本さんに、さっきあったダンプの件を話してみると、やはり声援をもらったと思っていましたが、状況を説明して、

 今後は、今回のような非常事態が起こったら、私はバイクの警笛を鳴らしながら路肩に逃げるので、その時には、決して後ろを振り返ったりせずに、瞬間有無を言わずに路肩に飛び込んで逃げるという、緊急時の対処方法を決めたものでした。
b)東北のガードレール事件・・・形ある物いつか壊れる?
 東北地方を走行中の出来事でした。
昔ながらの人が通っていた道を無理やり拡幅したような感じの、所々構造的に無理が有るような道幅の狭いガードレールで仕切られた道を進んでいました。事のほか交通量は多く、流れも速く、大型車も混じる気の抜けない道路でした。

 給水に止まるポイントもなかなか直ぐには決まらないような、路肩にスペースの無い道です。
前方の様子を常に把握しつつのマラソンで、危険な個所がをかわすため、ランナーは右を走ったり左を走ったりしていました。

 そんな中、不規則にうねったみちに添わすようにガードレールの設置された場所に差し掛かった時、後方から連続して車間距離を詰めて走ってくる後続車車両の中に極端に路肩に寄って走ってくる4トン箱車がありました。

 こちらのバックミラーでは見えていましたが、車がわからは、前を走る大型トレーラーの陰になり、こちらの存在が判っていない様子でした。 もう少し近付いたら気付くだろうと思っていましたが、追いぬく直前になって、さらに路肩側に極端にふらつくように寄ってきました。
緊急退避
 「いかん!引っ掛けられる!!」瞬間アクセル全開フル加速しつつ路肩側に逃げました。うねったガードレールの出っ張った部分に左サイドが激突し、プラスチック部品が飛び散りました。 バイクを置いてガードレールの外側に身体だけ逃げなければ駄目かと思ったその時に、ハンドルの右すれすれをかすめて通過していきました。


 左足はガードレールとバイクの間に思い切り挟まれてしまい、丁度ガードレールのつなぎ目の大きなリベットの部分が当たってしまいました。膝が壊れる代わりに、膝に装着していた強化カーボンファイバーの装具が砕けました。

 身体は無事でしたが、バイクは左半分に隠しようの無い大きな傷跡を残しました。 ドライバーは居眠り運転でもしていたのでしょうか?確認のしようがありませんが、この場合そのトラックとは衝突を免れているので、大事にはなりませんでしたが、バイクの被害は無き寝入りするしか無いという厳しい現実があります。

 しばらく脈が動揺していましたが、気を取り直して任務続行です。危険は覚悟で引き受けた事、ピーピー言っても始まりません。身体が無事で良かったと思わねば、・・・
c)北陸の珍事件・・・何故そこに?
 北陸の日本海岸部を走行中の事です、
走行ルートは大きなトンネルにさしかかりました、基本的に狭く交通量の多いトンネルの走行は危険が伴いますが、その大きなトンネルは車両専用でした。歩行者と自転車は併設された専用トンネルを通るようにとの標識が出ていました。

 伴走車両はトンネルの手前で給水をした後、先行し、専用トンネルがある事を無線で知らせてから歩行者・自転車進入禁止のトンネルを通過していきました。トンネルの手前の歩行者と自転車専用トンネルの案内標識に従ってメインルートをそれて奥へ進みます、

 奥まった所に、専用トンネル入り口がありました。・・・が、ど真ん中にブルドーザーが置いてあります。近寄ってみると工事中で「通行止め」でした!

 メインルートは通行禁止、迂回ルートも通行止め、そしてそれについての事前のインフォメーションなどもありません、現場に行ってみて初めてその事実が判明します。

 国道に歩行者専用道通行止め等とインフォメーションを掲示しておくと、そのまま自動車専用トンネルに歩行者や自転車が侵入してしまう事になり、その場合万一事故が発生時の責任の所在についての問題が発生する懸念から、事前表示はなにも無しです。
至急迂回路を探せ
 どういうことだ?などど不平を言ってまはじまりません。先の様子を聞こうにも、既にマラソン号はトンネルの向こう側に行ってしまっているので、無線機の電波は届きません。バイクに搭載したナビゲーションを使って迂回ルートを探します。

 大きく海岸部まで迂回して、国道と平行して走る道路に出た後に、メインルートに斜めに合流する方法が一番ロスが少ないコース取りとの判断から、見当つけてバイクはルート探索にランナーに先行します。バイクに搭載しているナビゲーションは、全国版のCD道路地図なので、微細な枝道は実際に走って調べるしかありません。

 住宅街の中を抜けるルートになりました、方向を間違えないようにしつつ最短ルートを探します。通り抜けられるのか否かを確認しながら、ランナーとの間を行ったり来たりしながら指示を出しつつ進んでいきます。


 造成中の住宅街を探索中に、出口のほうまで見通しの利く自動車の教習所にあるようなクランク状の道が出てきました。道の先を読みつつクランク部分に入ります、スピードは出ていないものの、連続する直角コーナー部ではバイクはフルバンクさせて通過します(思いっきり寝かし込んだ状態)が、
珍味の袋にやられた
 その時、左に回って、次に右に回って、さあ出口っというと所で、走行ライン上の路面に「ひらり」と、珍味の袋が風に飛ばされてきました!それはカラスかニャンコに食い散らかされた残骸です。タイミングよく見事にタイヤがそれに乗り、足元をすくわれてしまいました。

 寝かし込んだバイクがそのまま滑ってスライディングするように路面を滑っていき、路肩のゴミステーションに積まれたゴミを押しつぶして止まりました。珍味の袋の出所はそこでした。

 ゴミステーションの金属製のバケツにぶつかった音が「ガッシャーン」と響き、すぐそばの窓が開き、家のかーさんが顔を出し、「大丈夫かい?」と声をかけてくれました。

 珍味の袋にやられてゴミにまみれてる事ががおかしくて自分で笑ってしまいました。

 バイクと身体の右側に擦り傷を作っただけで済みましたが、珍味の袋にやられるとはなんともカッコ悪い。急ぐ時ほど急いではならないという教訓をのこしました。
d)雨の長崎事件・・・長崎は坂の町
e)北海道の凍結事件・・・シバレルという事?
=== 17) 非常事態 ===
18)裏話・・・・・・・・・・
16)リハーサル其の三
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