77)蝦夷鹿のゲボ
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10)知床の春/60)蝦夷鹿の話
蝦夷鹿(えぞしか)ミサイル命中
 かつて知床半島の道路をバイクで走行中に、突然道路脇より飛び出してきた蝦夷鹿(エゾシカ)に衝突してしまい、当時のメインマシンのホンダアフリカツイン750が廃車になるという苦い経験をしました「燃焼室の10)知床の春参照」。それ以来、鹿が出そうな怪しい場所では警戒してバイクを走らせるようになっていました。

 しかし当時の結論として、鹿が飛び出すタイミング次第では全く回避不能であるという、どうする事も出来ない部分がありました。「燃焼室の60)蝦夷鹿の話参照」 それは危険地域を多く走れば走る程危険は高まるという簡単な確立論です。

 そんな経験からホームページ上でその危険についてのコンテンツを作って注意喚起したり、自分でも危険が感じられる場所を通過する際は、まずは減速、そして鹿が飛び出して来たときの回避方法を考えながら走行していました。

 しかし、2001年春の事故から7年後の2008年秋、その瞬間は訪れました。夕暮れ時の山間部の快走路を気持ちよく走ってた時の事です。 暗くなる前に蝦夷鹿が飛び出しそうな森を抜けてしまいたいと思い、慎重に先を急いでいました。

 緩やかなカーブを加速しながら立ち上がって先が見えたその瞬間、森の中から狙いすましたようにバイクの走行ライン上に一頭の蝦夷鹿が勢い良く飛び出してきました。鹿は道路上に飛び出してバイクの走行ライン上をバイクから逃げる方向に走っていこうとします。 しかしバイクとの速度差がありすぎて思いっきり後ろから追突する状態になりました。

 ニーグリップ(両膝で車体を挟み込む動作)が決まっていて安定した加速状態だった事が幸いして、瞬時に急制動をしつつ、鹿の右側を追い抜く形で交わそうと回避動作を行いました。 しかし蝦夷鹿は追い越される瞬間に急に右に進路変更をしてバイクに衝突してきました。

 蝦夷鹿ミサイル命中の瞬間です。
悠々と道路の真ん中を歩くエゾシカの写真
1)
これは道路を歩く蝦夷鹿の参考写真です。天気の良いある日の午後、知床横断道路を人慣れした蝦夷鹿が悠々と道路を歩いていました。これは雄の成獣で推定体重は100kgを超えています。この蝦夷鹿は人や車が自分に危害を加えない事を知っているので堂々としています。

 まともにぶつかったら被害は甚大ですが、人慣れ車慣れしているので、近寄っても急に走り出したりしないので、通常の注意力をもって運転をしていれば、まず衝突する事は無いと思われます。*これは特殊なケースです。
片側一車線の緩やかなカーブ出口の道路の写真
2)
これは今回の衝突現場の写真です。緩やかな左カーブの立ち上がり、中央線付近を加速している時に左の森の中から蝦夷鹿が飛び出してきました。フルブレーキを掛けながら中央線右側に回避しましたが衝突してしまいました。

 写真中央の路面上に跳ね飛ばされた蝦夷鹿が吐いた「ゲボ」がシミのように写っています。実際の衝突地点はここより数m後方です。
鹿に衝突されたバイクの正面写真
3)
蝦夷鹿は写真で見ている角度でバイクの左前方より衝突してきました。
衝突箇所と当たる順番は
1:フロントフェンダー上・下
2:補助前照灯
3:フロントフォーク
4:左エンジンガード
ぱっと見大きな損害は無さそうです。衝突後蝦夷鹿は、両膝を折り曲げて正座のような格好で回転しながら左方向に跳ね飛ばされて路面を滑っていきました。
バイクの破損箇所の写真
4)
しかし良く見ると「Fキャリア」というフロント部分の骨格の役目を成す重要な部品が壊れていました。

 それは写真中央部に写っている丸頭のヘキサゴンネジが止まっている先の板状の部品です。ヘッドライトや計器類を中に収めている大きな部品で人で例えると頭蓋骨のようなものです。 この部品は既に二回壊して交換しているので今回は小さい破損なので補修で済ませることにしました。
ダウンフェンダーに付いた鹿の鼻水の写真
5)
これはフロントフェンダーに付いた鹿の鼻水です。 奥から手前に向かって伸びています。それはフロントフォーク付近に鹿の顔がぶつかって弾き返される時に鼻先がフェンダーに擦り付けられて鼻水が付いたものと思われます。
鹿のゲボと毛が付いた左エンジンガードの写真
6)
左エンジンガードの後ろ端に「鹿のゲボ」と鹿の毛が付いていました。 始めはドロドロの緑色の物体が鹿の糞だと思いましたが、それは違っていました。よく観察すると糞ではなく胃の内容物である事がわかりました。

 蝦夷鹿は草を食べた後、胃に溜め込んだ草を逆流させて一度吐き戻し口で噛み直す動作「反芻」(はんすう)をする動物です。衝突の衝撃で内蔵に強い圧力がかかり、胃が圧迫されてゲボを吐いたものと思われます。
鹿のゲボが付いた左足の写真
7)
左足のブーツやライディングウェアーなどに多量のゲボが付いていましたが、エンジンガードに守られて足や身体への衝突は免れています。

 鹿のゲボは見た目は悪いですが、色の薄い海苔の佃煮のような感じで臭いはありません。拭くと簡単に拭き取れます。拭き残しは乾いて草むらで転んで付いた草の跡のようになりました。
バイク左後方のタンデムステップと消音機に鹿のゲボが付いている写真
8)
ゲボはバイク後方のタンデムステップやマフラー(排気消音機)にも飛び散っていました。

 マフラーの後端にまでどうやってゲボが付いたのか?その仕組みはちょっと考えても解りませんが、べったり付いていました。マフラーに付いたゲボは見る間に熱で乾燥してカラカラの草餅状態になりました。
バイクの後ろに積んだ荷物にもゲボが飛び散っている写真
9)
リアシートに積んだ荷物にも鹿のゲボが付いていました。もし身近なもので見た目が鹿のゲボに近いものを作るとしたら、ホットケーキの生地に細かく砕いたナッツ類を少々混ぜ込んで、抹茶パウダーで緑色を付けると、極めて近いものが作れると思います。
路面に飛び散った鹿のゲボの写真
10)
10)路面にも鹿のゲボが付いていました。蝦夷鹿はバイクに跳ね飛ばされたあと路面にも打ち付けられたようです。 衝突後の鹿を目で追っていましたが、路肩まで滑走していったあと、立ち上がって逃げていきました。

 一旦前を向いてサイドスタンドを出してバイクを停め、鹿の方を見た時にはすでに姿はありません、直ぐに後を追い森に入りましたが、発見できませんでした。
蝦夷鹿は推定体重90kg程の雌鹿でした。対するこちらはバイク+キャンプ道具+ライダー合計で約400kg程 ありました。 

 前回の経験から極端に恐れる事無く、冷静に衝突後のバイクの挙動を考えてハンドルを掴む両腕の脇を締め、ニーグリップを決めて衝突に備えつつ、回避の可能性に一縷の望みを託しましたが、直撃を受けてしまいました。

 それでも鹿の飛び出しを警戒していたのでスピードも控えめで、向かってくる鹿をバイクのエンジンガードでぶっ飛ばした格好になり、不幸中の幸いで大事にはなりませんでした。

 また、一瞬ABS(アンチロック ブレーキ システム)が作動した事も大事に至らなかった要因だと考えられます。

 この事故の数日後、旅先で知り合ったライダーにバイクに付いている「鹿のゲボ」を見せて事故の話をした所、「鹿がかわいそう」と言ってました。

 観光客にとって蝦夷鹿や北キツネ等の野生動物は愛すべきかわいいだけの存在ですが、実はもう少し深い部分も解っておく必要があります。
国道に設置された野生動物による交通事故調査の看板
看板の内容は、お願い野生動物による交通事故情報、もし発見されましたら、下記まで御連絡お願いします。とあります。 国道に設置された看板です。内容は調査区間終了、野生動物交通事故調査、野生動物の交通事故を発見した方は、1.日時 2.動物の種類 3.場所 を下記まで御連絡下さい。 とあります。
「深い森を突っ切る道路」
「夕方・夜・明方に通る時」には

「減速」して

「自己防衛」するしかありません、

森の蝦夷鹿ミサイルは警告無く発射されてきます!(笑)
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