おまけの東北ツーリング(その一)
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澤本さんに見送られて走り出したのは既に3時を回っていました。日中晴れていた空には雲が迫っていました。
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1)
 漠然と天童市に向かっていました。ずっと同じ事を考え続けていた。一緒に酒を酌み交わしても良かったんじゃないか?、そんなに重く捉える事じゃないだろう、実際じっくり飲みたかったし、もっと話がしたかった。昨夕合流して、たった一日で10年分の話をしたような気がしていた。

 思えば澤本さんはマラソン前から願掛けの禁酒をしていたので、酒を酌み交わした事が無かった。

 日本一周中には周る先々で「澤本さんに」と差し入れられた数々の銘酒は全て本人の口には一滴も入らずに我々宴会要員スタッフ3名(佐藤・伊藤・阿部)の身体に全て吸い込まれたものだ、

 そうして本人には空き瓶を差し出して匂いだけ楽しみながらスケッチさせていたという、なんとも残酷な有様だった。

 そしてついに札幌にゴールした夜の式典で禁酒を解いて、長靴の形をしたジョッキで嬉しそうにビールで乾杯していた澤本さん・・・それぐらいしか酒を飲んでいる姿の記憶が無いのだ、

 さらにその後にすぐ理由を告げない新たな禁酒に入ってしまって、機会があっても澤本さんは1人でウーロン茶を飲んでいた。

 ほんとうに今夜はじっくりとさしで飲みたかった。それを自ら棒に振ったのだ、何度考えても最後まで許可を出さなかった。

雨が上がる頃には気持ちも少し晴れてきた。
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2)
 山形市内に戻って冷えた体を温泉に入れようと、山の方をグルグル探してみたもののうまく辿り着けず・・・、さらに腹が減ってきたので市内に下ってぐるぐる徘徊していたら、一軒のよさげなレストランを見つけた。

「やわらかく煮くずした地物ブロッコリーのソース
              今しか食べられない新鮮なイクラ添」・・・のパスタ

 !なまら美味い!


・・・でも、心底楽しめない、

澤本さんは今頃一人で宿の部屋で飲んでいるような気がする。
伊藤さんは今頃家で飲んでるような気がする。
のりべーは今頃家で娘と戯れつつ飲んでいるような気がする。

 皆それぞれに無理を押してスケジュールを合わせていた、本当は今頃帰りのフェリーの中で揃って旨い酒を飲んでいるはずだった。

 自分も早く仲間に加わりたい。

 開店二年目という山形市白山の「IL BLu」イル・ブルというお店、いつか近場に寝床を確保してワインを楽しみに行きたいお店
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3)
 食事を終えて酒屋で地酒を仕入れて山の方にバイクを走らせると夜景の見える小さな公園を見つけました。大きなひさしを持った東屋もあります。時折小雨がパラつく空模様に良い所を見つけました。

 今夜は夜景を肴に飲むかな〜と、準備をはじめようとしていた時、一台の車が駐車場に入ってきました。中から若い男女が出てきました。ひとしきり夜景を見ると車に戻りました。

 でもエンジンをかけたまま車は動きません。そうこうしているうちに一台、また一台と車が集ってきて駐車場は満車になりました。ここは山形市のデートコースらしい

 夜景は恋人達に明け渡して早々に退散です。諦めて山の方にあるキャンプ場に向かいました。この時期既にキャンプ場は閉鎖なのか?なかなか辿り着きません。

 冷たい小雨に打たれつつ山裾を彷徨ううち雨を凌げる場所をみつけて逃げ込みました。・・・結局暗闇を肴にバイクと飲む事に、、、寒空の下で自分はいったい何をやっているのだろう?

 寒くて堪らずに寝袋に半身突っ込でベンチに横たわり、だらしない格好のまま酒に手を伸ばす「おやじマーメード」。その手をバイクに伸ばすとエンジンにはまだ温もりがあった。
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4)
 早朝出発準備をしていると地元のバイク乗り三人組みが炊事道具を持ってやってきました。朝飯を食べるために集うのだといいます。

 仕事の都合で遠くには行けないので、子供の頃からよく遊んでいたこの森で、外飯を楽しんでいるようです。懐かしの灯油コンロで暖を取る。おとなの炊事遠足とでもいうものかな?
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5)
 朝小早くバイクを走らせ寒い寒いと集って、大きなコッヘルで煮たラーメンを小さなコッヘルで分け合って食べている。伸びぎみの麺を手繰り、卵入りの熱いスープを啜る。

 寒い朝にはごちそうだ。時折笑い合って楽しそうに食べている様子を見ていると、子供の頃から通い重ねた思い出も噛み締めているようだ。

 こんな他愛の無い事を一緒に楽しみ、分かち合える仲間はかけがえのない財産だね。

 ちょっと寂さを感じ、これから数日の自由な旅に喜び身震いして走り出した。仲間と一緒に遊ぶも良し、1人勝手に遊ぶも良し、そんなバイクがいい
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6)
山形市内を一望する展望台、「山形恋人パーキング」・・・勝手に命名!(笑)
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7)
 交通量の多い国道に飽きて、旧道に入ろうとすると通行止めの看板が立っていました。でも読むとバイクや自転車、歩行者は通れると書いてあります。どうなっているのか?

 面白そうなので行ってみると、老朽化した橋の上に小型の橋が掛けられていました。これでは車は通れませんがバイクは余裕で通れます。これは良い良い御蔭でこの先バイクの貸切道路。
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8)
 車が通らないおかげで落ち葉がたくさん残っています。ゆっくり踏みしめて秋の足音を楽しみます。
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9)
 道の真ん中を歩くような速度でのんびり走って秋の空気を吸収します。ちょうど昨日のマラソンの伴走をしていた時と同じような速度、2速アイドリング半クラッチ/時速8km程でゆっくり走ります。木漏れ日を踏みながら、飛び交う小鳥の表情を追いながら、好きなだけ遅く走って楽しみます。

 峠の頂上を越えたら下り坂、エンジンを止めてクネクネ道を下ります。子供の頃自転車に乗る事が嬉しく嬉しくて、坂道をわざと蛇行しながら下っていったように、ゆっくり山の空気を押し除けて滑るように下っていきます。
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10)
時折森の切れ目から見える遠い稜線に向かって、なめらかに進んでいきます。
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11)
 道端に面白い看板を見つけました。「蟻腰峠」(ありこしとうげ)とあります。あまりの急登のため地に這いつくばって登った様子からその名がついたと記されています。歴史を調べたら面白そうです。
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12)
 峠を降りると山間の奥に田んぼがありました。苦労して切り開いて先祖代々受け継いできた大切な田んぼでしょう。人の住む世界と動物の住む世界の境界線にある田んぼ。動物の食害との戦いに維持していくのは容易な事ではないはずです。
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13)
山の神の欅(けやき)・・・とあります。畏敬の念をもって大切にしてきた大きな命
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14)
ちょうど昼時に酒田市中心部の商店街に寄ってみます。
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15)
 商店街の一角に大学の模擬出店がありました。威勢の良いおねーさんの客引きにつられて覗いてみると、特産品など売っています。これは玉こんにゃく。入り口の出店で作っていました。

 なかなかの弾力。女子大生のおねーさんに導かれるままに、勧められるがままに梨とラフランスをお買い上げ、看板娘の威力は絶大だ、爺さんの家で作っている自慢のくだものだという。

 実はその梨、翌日剥いてたべたら大当たり!大切な孫の為に爺さん張り切って最高の梨を提供したんだろうね、箱買いしとけばよかったと悔やむ事しきり、いっそ200km戻るか?とマジで考えさせる程の旨い梨だった(笑)
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16)
 たまにラーメンを食べたくなって、しばし商店街を探索して暖簾を潜る。辛いでもなく、しょっぱいでもなく、脂っこいでもなく、久々に旨いラーメンを食べる。
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17)
酒田の商店街には、いい大学が集っているようだ、
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18)
 10年前のマラソン当事、稚内をスタートして最初の休養日がここ酒田市でした。澤本さんは朝から走りに行き、伊藤さんは破裂した車のタイヤの修理に走り、ノリベーは土門拳美術館へ、佐藤は宿でバイクの冷却ファンモーターの増設作業に明け暮れていました。

 ノリべーから話を聞いて、いつか行ってみると思っていた、「土門拳美術館」に10年越しで行く。昼過ぎから閉館ギリギリまで絞り取るように写真を見て周る。 閉館後最上川の夕日を見送った。

土門拳という人はカメラを筆にして絵を描いている。・・・と思った。
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19)
 日が沈んで辺りを寒さに囲まれると、急にお湯が恋しくなり町の温泉に向かった。露天風呂に浸かってボーっと考え事をしている隙に、併設レストランのラストオーダー時間をぶっちぎってしまった。

 今夜の晩飯はパン二個とヨーグルトになってしまう。・・・でもこの飯ン(パン)カレーパンはなかなか美味い。
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20)
施設の閉館を待って自転車の気持ちになって一夜を明かした。
 山形市内に戻って温泉を探していた時、またもや雨に降られて軒下で雨宿りをする事に、・・・まだ間に合う。澤本さんに電話して一緒に飲もうとも考えた。携帯のリダイヤルを表示させては固まった。最後まで発信ボタンが押せなかった。
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