89)屋根裏のチュー介
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屋根裏に招かれざる客が侵入しました。
11月のある日の夜、何者かが天井裏を走り回る音で目が覚めました。 実は数日前からなんとなく屋根裏からたまに音がするような気がしていたのですが、それが確証に変わりました。
テテテテテッ、ガサガサガサ、テテテテテッ、カリカリカリ、バキッ!トタッ、タタタタタタ…、それはおそらくネズミの足音です。

翌朝押し入れの天板を外して懐中電灯で見ると、柱が齧られ、断熱材をボロボロに破って巣らしきものが作ってりました。しかしうちの屋根裏は狭過ぎて人が入れないのでどうする事もできません!
このままでは電気の配線とか齧られたら大変な事になるぞ!
子供の頃から札幌に住んでいますが、屋根裏にネズミが出たことなどありませんでした。ネズミやゴキブリなどの生物は温かい本州に生息しているもので、厳しい冬を越せないため北海道にはいないと思っていました。

これも地球温暖化の影響か?もしくは単に家がボロ家になった証しなのか?・・・平和のために温暖化のせいにしておこう(笑)
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1)
早速対策品を求めてホームセンターに行ってみると、ネズミ駆除の商品が目立つ場所でコーナー展開されていました。という事は他のお宅でもネズミが出没しているという事かな?

ネズミ退治コーナーには様々な商品が陳列されています。昔ながらの金網のかご型ネズミ捕りや粘着シートタイプのネズミ捕り、毒餌タイプの殺鼠剤が数種類、ネズミが嫌う匂い成分で出来た忌避剤(きひざい)や超音波で撃退するタイプの製品まで色々です。

いろいろと手に取って考えた末、シンプルな角型ネズミ捕りを¥680で購入しました。写真はバネ付き蓋を引き起こして餌を留め金に吊るしてセットアップした状態です。

ネズミが出るのは夜なので、その前に仕掛けてしまおうと、急いで取り説を読んで作動を確認して、油揚げの切れ端を餌に天井裏に仕掛けました。
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2)
品名は「K-1角型ネズミ捕り」といういかにも頼りになりそうなねずみ捕りです。

仕掛けてから気になって調べてみると、ネズミは警戒心が強く、「簡単には罠にかからない」らしいという事が判ってきます。

捕獲率を上げる為には、特別な餌を用意したり、撒き餌さをしたり、設置に工夫するなどの人の知恵が必要なようでした。 しかも一度設置したら少なくとも数日間は触らずにそのまま放置してネズミが警戒心を解くまで根競べをしなればならないともあります。
ネズミは学習能力が高く一度危険と認識されると捕るのは難しい
説明書によると設置している現場や人が罠に触っている所を見られるとアウトなのかも?

しまった、もっと良く調べて考えてから慎重に仕掛けるべきだった。「普通はそうでしょ?」と自分に突っ込み入れて笑った所で後の祭りです(笑)

しかもネズミを捕らえたらどうするか?水を張ったバケツに罠ごと沈めて処理をして、死骸は生ゴミに出すということですが、溺死はなんとも可愛そうです。

以前受けた特殊な訓練で「万全のレスキュー体制の下で春先の激流にたたき落ちて溺れてみる」というのがありました。擬似とはいえ溺れるのは苦しいし成すすべなく水中に引き込まれていくのはとても怖いものでした。

さらに調べると「車の排気ガスに当てるとすぐに昇天する」との情報をみつける。溺死よりは一酸化炭素中毒のほうが苦しまない分「まし」かもしれない、正常に呼吸は出来ている状態で脳細胞が酸素欠乏で死滅を始めるので苦しみや痛みを感じる前に意識を失うらしい、

いずれにせよ命を捕る事になる。ハエや蚊をたたき潰すような訳にはいかない
・・・などとパソコンに向かっていると、上の方で「バンッ」と弾力のある単発音がした。

「えっ」罠が作動した?でも仕掛けてまだ1時間も経って無いし何か別の音じゃないか?でも別の音って何よ?・・・押し入れの下で腕を組んで天井に耳を澄ます事しばし、ねずみが罠にかかれば騒いで暴れまわるはず・・・でも全くの無音のまま、

それでも思い切って確認してみると・・・
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3)
天井裏のパネルを開けると、突然「チュ〜〜〜!ヂュー!〜〜〜」っと断末魔の雄叫びが始まった。籠の中で暴れ回る小さな生き物が懐中電灯に照らし出された。
ネズミ一匹、あっけなく御用! 
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4)
袋のネズミならぬ籠のネズミは激しく暴れて威嚇し、こちらに飛び掛ろうとして何度も金網に激突して騒ぎ続けます。間違っても齧られないようにバイク用の厚い皮グローブはいて、糞尿たれないように新聞紙であてがいつつ慎重に外の車の所まで運びだしました。かわいそうですが車のエンジンを掛けて排気ガスで処理をします。
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5)
確実なものとするため、ホームセンターのビニール袋ですっぽり籠を覆い取っ手をしっかり縛ります。
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6)
排気管にビニール袋の縛り口を合わせて中に排気ガスを充満させます。排気ガスの圧力が強いので膨らんで風船のようになっています。これで排気ガス純度100パーセントの空間にネズミを置く事になります。皮グローブをしていますが念のため新聞紙を介して籠を持っています。

ネズミは激しく暴れた後、すぐに動かなくなりました。

確実に目的を遂げるため、動かなくなってから5分ほどこの状態で耐えました。排気管の所にしゃがんでいるので人間の方もしこたま排気ガスを吸わされる状態になってしまいました。
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7)
排気ガスの臭いで具合悪くなりかけた頃、処理が終わりました。そっと籠を地面に置いて車のエンジンを止めました。水蒸気で雲って中の様子が判りません。
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8)
恐る恐る中を見ると・・・ネズミと目が合いました。 なんと、まだ生きていました。完全な失敗です。

 ガスをかける時間が短かったのか?懐中電灯で照らすと走り回るところを見ると原因はもっと根本的な部分にありそうです。とりあえず半死ににしてしまわなくて良かった。やはり確実に送るには溺死させるしかないか?

これから水を張ったバケツを用意して水没させるか?

でも既に刑は執行されている。ねずみの罪は清算されているはずだ、そもそもねずみの罪は何だろう?家の屋根裏に勝手に侵入して住み着いた罪、木材や断熱材を損傷させた罪、糞尿で汚染させた罪、食料を盗み食いした罪、等など、どれも許し難い、それでも殺してしまう程では無い、もうそんな悪さをしなくなればいいだけだ。

しかし自分の家からつまみ出したとしても、今度はよその家に入るようではまた別の問題になる。結局どんなに理屈を捏ねようとも、ねずみにはあの世にいってもらうしかない

ゆるぎない理論は判っている。ても、おびえるネズミと目が合った瞬間、かわいそうになってしまった。そもそも出来る事なら殺生はしたくない。それでも生きるためには食べなければならないし、害虫はたたき潰すしかない。

どうするか?

今夜のところは車の中のダンボール箱で一夜を明かしてもらう事にする。
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9)
翌朝見るとビニール袋に入っていたはずの籠が、籠の中にビニール袋が入っている状態になっていた。ねずみが齧って籠の中に引っ張り込んで、千切って自分の巣を作ってしまったようだ、端っこの新聞も齧られてボロボロになっていた。たくましき小さな生命力
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10)
今日一日車に乗っている事になるので、落ち着くように新聞をかけておく。出発の時、新聞を少しめくり、「おいチュー介、おとなしくしてろよ」と中を覗くと、チュー介はビニールの隙間から目線を合わせてきた。
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11)
油揚げに釣られたチュー介に昼食の時メンチカツを少し千切って籠の隙間から押し込んだ、「チュー介、おまえも食うか?」声を掛けて静かに新聞をめくると巣の隙間から顔をだして様子を伺っていた。
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12)
夜になってようやく目的の場所にチュー介を連れていく、そこは周囲数キロに民家が無い深い森の中。道路も手入れが悪く酷いガタガタ道になっている。車が大きく揺れないようにゆっくりゆっくり進んでいく
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13)
ここならいいだろう、という場所で籠を地面に置いた。チュー介は目覚めたように周囲の匂いを嗅ぎ活発に動き回り始めた。
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14)
しばらくして動きが収まった頃、そっと籠の扉を開け放った。 チュー介がいつ飛び出してきてもいいように、カメラを構えてじっとその瞬間を待った。
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15)
しかし待てど暮らせど逃げ出す気配がないので、しびれを切らして小枝で少しずつ巣を崩して扉が開いている事をアピールしてみた。
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16)
ところが、チュー介は出口と反対に引き篭もってしまった。仕方ないので落ち葉の葉脈で金網越しに背中のあたりをツンツンしてみるも、迷惑そうにモゾモゾするだけで出て行く気配はまるで無い
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17)
もう、待っているほうが寒くて耐えられないので、小学生以来久々に使う「ほら、逃がしてやる」という言葉を掛けながら籠を傾けて強制退去してもらう。 これがお別れの瞬間の写真、・・・になるはず
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18)
ところが、、、チュー介はメンチカツの欠片を見つけてその場に座り込み食べ始めました。
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19)
「まあ、あとは好きにしろや」と、散らかったチュー介の巣材を片付け始めようとした所、ようやく逃げ始めました。でも、動きがとってもスローリーです。まるで酔っ払いが歩いているようなもたもたした感じ、
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20)
歩き出して1メートル程で止まってしまいました。「好きにしろや」と言ったものの、ここは車通りは少ないとはいえ道路の上です。

21)
まったく動く気配が無いので「休むなら森の中で休みなさい」と、懐中電灯の光をあてて近づくと、ようやくネズミらしく飛び跳ねる元気な走りを見せました。

22)
そのまま車道を渡りきる手前で走るのをやめて、もたもた歩きはじめました。

23)
落ち葉の上をカサカサと歩き

24)
路肩の茂みの手前で一休み、これがチュー介とのお別れ
車の所に戻って道路に散乱したチュー介の巣材を割り箸を使って全部拾い集めて片付けてから、再びこの場所に様子を見に来てみると、既にチュー介の姿は何処にも無く、強力な懐中電灯で茂みの奥まで探してもその姿を二度と見る事は出来ませんでした。

風の無い明るい月夜の晩でした。気温はマイナス2度、夜半には更に冷え込みそうです。
家ねずみのチュー介はこの森で冬を越すことは出来ないでしょう。氷点下の環境で活動を続ける力も無いでしょう。とりあえず今夜は落ち葉に潜って眠るのか?チュー介よ、もしあえなく力尽きたとしても、この森のテンやイタチやキツネ達がその命を受け継いでくれるだろう。

もし再び家の天井裏まで生きて辿り着いたなら、その時はもっと広い籠の中でメンチカツを腹一杯食わせてやる。
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