7)道案内をどうするか?
 *指令*7月25日〜11月26日までの4ヶ月間日程で、土日祭日を除く平日の午前9時〜16時までの間に、全ての都道府県庁を回るルートを一筆書きで作成せよ!
1.0)さてルートをどうするか?
 マラソン隊が日程的な部分から計画を立てていく際に使用していたのは1998年度の一冊の全日本道路地図です。   それを基にして、全ての行程の走行計画を立てていきました。
 たとえば国土地理院発行の5万分の1の地形図等であれば、地図上の1センチは500メートルですから、「1500メートル」おきの給水ポイントは地図上では「3センチ」おきという事になります。 

 マップメジャーという道具を使って地図上の距離を測り、倍率を掛ければ簡単に正確な距離が出ます。 しかし全国版の25万分の1の道路地図にメートル単位の正確さを求めるべくも無く、記載された大まかなキロメートル単位の距離を正確なものとして計画を進めていかざるをえませんでした。

 道路は年々改良されていきます。込み合う交差点は立体交差になったり、迂回絽が作られたり、歩道を無くして車線を拡張されていたり、と、全ては自動車の円滑な交通のための道路を目指して日夜工事が進められています。

 つまり、常に距離的に数キロ単位の誤差があり、現場にいってみたら歩行者通行止めであったり、道がいきなりバイパスに変更されていたり、工事中で歩行者通行不能であったりと、問題点は現場に行って直面するまでわからないでであろう、との予測をしていました。
 
 そもそも県庁所在地を結ぶ旅ですから、それぞれの地域において一番混雑している道を行かねばならないという、避けようの無い現実がありました。

 ましてや生身の人間が足で走っていくという事ですから、車優先で作られたの都市部の幹線道路では、苦戦を強いられることは目に見えていました。
 
 日程的にルートを煮詰めていくと、必ずどこかが焦げ付いてしまい、そのたびにやり直しを繰り返していました。まるで難解なパズルを解くような作業を繰り返し、「焦げ付きの無いもの」を作る。

 というのは諦めて、「食べられなくは無い」という程度の所まで煮詰めてから、各都府県のマラソン実行部隊にお任せするという事にして、後は現場で何とかする!・・・という強行策にでました。
基本的な認識の違い
 じつはこの段階で「マラソンの趣旨」についての重大な行き違いが発生していた事を後に知ることになります。・・・それは全ての行程を「二本の足で走り切る」という基本的な事についてなんですが、

 どうもそういう認識ではなくて、辛くなったり人が見ていないような所では車に乗って移動してしまうのではないかと思われていたようでした。そのようなベースの考えから、時間的に多少の融通は利くものだとの間違った認識があったように思われました。

 一般市民に広くアピールするためのマラソンですから、基本は主要国道か主要県道を走ることとして、県庁回りの細かなルートや、近道、給水ポイント等のセッティングは各県にお任せして、併せて地元伴走ランナーの募集から、協賛企業の獲得、

 そしてアピールのためのイベントの演出まで、その場所でのルート案内も含めてお願いしてしまい、マラソン隊の通過に合わせた県庁訪問を中心としたアピールイベントを各県で企画してもらいたい。といったスタンスでした。
 
2.0)ありきたりの言葉ですが、「やるしかない!」という強行姿勢でした。

 さて、各県のマラソン実行委員の方々の奮闘がはじまります。 ・・・なにせ患者活動とは縁の遠かった「マラソン」を企画せねばなりません。  車で走りなれた道でも人が走るとなると通過に要する時間はどのくらいかかるものやら?・・・いきなり持ち上がった企画に精一杯協力していただきました。

 各県から住宅地図もしくは2万5千分の1の地形図などを使った主要部分の詳細なルート図が送られてきます。 それらを束ねた日本一周ルートマップが出来上がっていきました。

 実際のマラソン隊の行動は、本体マラソン号の詳細なルート図よりの指示を無線で伴走バイクが受け、ランナーに伝えるといった方法でルート案内していくことを基本とする計画でした。

 車がランナーの伴走するといった事は交通渋を招くので不可能ですので、「本体マラソン号」は常に先行して給水ポイントを確保してランナーの到着を待ち、ランナーへの給水後、最後に撤収して途中でランナーを追い越して次の給水ポイント設営に向かうといったやりかたです。
  
 
3.0)実際に始まって見ると・・・「予定」は「未定」・・・といった事の連続でした

 県庁突入などの重要な場面は、よく練られた計画と地元伴走ランナーの方がついているという事もあり、入念な打ち合わせと共にまず失敗する事は有ありませんでしたが、その後の行程で、伴走ランナーなしで、詳細なルート図も無く、国道をまっすぐに、などの簡単そうな場面でトラブルが発生していました。
 
 地元の人にとっては「曲がるのが当たり前」でも初めてそこを訪れるものにとっては、まっすぐ行くのが正しいルートのように思えてしまうんです。 特に国道などは道幅拡張などで、幾度もルートを変えているケースがあり、道なりに進んでいくといつの間にか、国道OO号だったのが県道OOO号と変わっていたりして慌てさせてくれます。 

 地元の実行委員の方が車で道案内してくださる場面等で、先行する先導車を見失うといった事がよくありました。   また、新しい道がバイパスになっており、一部歩行者通行不可の区間がある事が直前で判り、現場でルート変更していた事が伝わっていなかった、といった事もありました。
 
4.0)もうとっくに給水ポイントになっているはずなのに?マラソン号の姿が無い!!

 こうなって初めてはぐれた事が判ります。  「本体マラソン号」そのものが迷っている時に、こちらのルート指示を仰いだところでそれは無理というものです。 自分の現在地点が分からなくなっている時はどうすることも出来ませんが、ランナーを引き返させるわけには行きません。

 無駄な力を使っている余裕などどこにもありません。 そのまま終了地点に向けて走りつつ伴走バイクに積んでいる補給物資が底をつく前に本体マラソン号に合流しなければなりません。
 
 無線で連絡を取るものの、自分のいる現在地点を把握するまでが一苦労です。手当たり次第目に付く大きな建物の名前を言ってもらって、ようやくマラソン号の現在地点が判明します。

 実は毎朝出発前に、その日のルート図のコピーを受け取ってバイクに搭載している「GPSナビゲーション」にコースを入力していてました。 スタートの時点から既にその日の全コースを把握していました。

 現在地点はもちろん、終了地点までのルートも距離も、進むべ方向も、トイレを使わせてもらうコンビニもガソリンスタンドの位置も、その日の宿の場所まで、全て把握していました。

 それらは常に画面表示されていて、加えて音声ガイドでインフォメーションされていました。  それらをバックアップとして、使っていたため、トラブル時には絶大な威力を発揮してくれました。
 
 ナビゲーションの威力はすばらしいものがありました。数十メートルの誤差範囲で地図上で現在地点が把握できているという事と、目的地(県庁)まであと何キロ何百メートルあるのかという事を常に正確に判っているという事がとても重要でした。
 
 県庁到着予定時刻というのは絶対でしたから、そこに至るまでの時間を逆算をするのに正確な距離の把握が必要でした。車であれば、「少し飛ばす」とか「高速に乗る」だとかいくらでも調整のしようが有っても、二本の足で走るランナーにとっては、一定のペースでしか移動出来ません。

 目標まであと何キロあるのか?という事を正確にランナーに伝える事によって、精神的な余裕を持って走る事が出来ますが、逆にそれがないと常に時間に追われて「約束に遅れる不安」という重圧をかかえながら走る事になってしまいます。
 
 県知事との面会時間はもちろん、患者さんが炎天下外で待っていることもあり、「必ず約束の時間に到着する」というプレッシャーは相当なものであったと思います。
 
 ナビゲーションは、「カーナビ」というぐらいですから、車の道案内ように作られた機械ですので、歩行者通行不能といった障害にぶつかる事がよくあり、
 歩道がついていない、有っても進行方向反対側であったり、都会のビルの谷間などで衛星が補足出来ずに機能しなかったり、誤作動したりと、全て手放しでお任せというわけにはいきませんでした。
5.0)地域ごとに様様なスタイルで道案内を受けて来てみて・・・

 「蛇の道は蛇」・・・じゃないんですが、ランナーの案内はランナーでした。(笑) 一緒に走ってくれる伴走ランナーの方がルートに精通していて、マラソンの進行について打ち合わせが出来ていてる、というケースが一番スムーズでした。
 
 実際に走る予定のコースを使って、人の足で走ってリハーサルをして計画をたててタイムスケジュールを作ってくれていたところは、さらにスムーズでした。
 
 ルート上の曲る地点やわかりにくい所で、案内のプラカードを持って待っていてくれた人の姿にはこちらが、激励されました。

 この場合「地点ごとの要員」の方との連絡方法や、情報伝達手段が重要であると思いました。携帯電話を持っていれば全て解決なんですが、それが無いとただひたすら「待つ」という事になってしまいます。もしくは無線機を持っていれば、マラソンの進行もわかり、より参加している実感が感じられたと思います。
 
6.0)自転車を使った道案内も有効でした

 自動車を使った道案内については、車でマラソン号を誘導して、そこからの無線指示をランナーに伝えるといった方法での道案内になるため、マラソン号と案内の車のコミニュケーションがうまくいっているうちは何の問題もありませんが、いったんはぐれてしまうと、その後の収拾がなかなか大変でした。
 
 誘導の車が他の一般車両に紛れてしまって見失うといった場面が多々見られました。
マラソン号はどこから見ても判りやすいように看板を掲げ、車体にはステッカー類を沢山を張り、
 さらに屋根の上にはルーフボックスを二つ搭載していて、渋滞に巻き込まれていても、頭一つ分他の車よりも飛び出しているために発見しやすい特徴がありました。
 
 大き目なワゴン車に、大きくマラソンのロゴマークをあしらったまるで「専用サポートカー」のような伴走車両を用意していたところもありました。目立つおかげで見失う心配も無く、そのような車両が連なって走る様は非常にアピール効果がありました。
 
 案内の車が多数になると、給水ポイントの選択の余地が無くなってしまい、狭い場所に止められずに路肩を占領してしまう状態になってしまうことがあり、交通障害を招いてしまっていました。
 
 車での道案内の要点は、1.5kmおきの給水ポイントがあらかじめ設定されている上での道案内であること、b)案内車両は一台で、軽のワンボックスカー等が適している、c)確実な通信手段が確保されていること。 以上の三点。
 
7.0)道案内は一人

 これが一番重要かもしれません。 
案内の車が何台も走っていたとしても、先頭を走る車が間違えると最早それまでです。
 協力しあうというのはもちろんですが、ことルート案内については、状況に応じて「常に確実な一人」が「責任を持って」指示を出すという事が重要でした。
 
 ここからここまでの区間は、地元道案内「Aさん」が案内します、そこから先はわかりません。といった明確な意思表示が必要でした。どちらが主導しているのかが不明瞭な時にミスコースをしていました。
 
 実例ですが、・・・先導する車が全て道なりに進んでいきました。マラソン号も続きました。無線指示も特にありません。いつもの事でそのまま続けばいいだけの事です。・・・が、しかし今日の終了地点に到着するためにはそこを右に曲がっていく必要があるとナビゲーションの表示が出ています。
 
 その緩やかな斜めの交差点を目視できる距離になって、そこを進んでいく先導車の進んでいくさまが見えている状態で、「そちらでは無い」と、独自にルートを変えて指示を出すという事はなかなか難しい事でした。
 
 あわててナビゲーションでルート検索しつつ、記載されていない新しい道がこの先に出来ているのではないか?等と考える事にして、マラソン号に確認の無線を飛ばしてみるも?「みちなリに進んでいいのでは?」などのあいまいな会話の中そのまま進むと・・・
 
 ・・・じつは思いっきりの遠回りルートに入ってしまっていました。 ほとんどの場合は、そのまま何事も無かったようにして進みつつ、ナビゲーションで最短で戻れるルートを検索して、途中無線連絡しつつ「ランナーに気付かれないように」(澤本さんすみません)
 
 地味に修正して正しい道に戻るんですが、修正のしようの無いルートで、まともに先頭車両が引き返してきた時には、「笑えないけど、笑うしかない!」・・・という事がありました。
 
 内緒ですが、実際の走行距離は発表された数字より多かったりしてます。
 
 連日の猛暑の中、毎日休み無しに60Km以上の距離を走り続ける身にとって、無駄な走りをさせるという事は、ましてや今走った道を引き返すというのは、肉体的にも精神的にも想像以上に負担が大きいものがありました。
 
8.0)時間に遅れるという事

 いつも宿に到着するのは暗くなってからといった事になっていました。  宿は、料金の点から公共の宿泊施設である場合が多く、夕食の食べられる時間は明確に決まっていました。
 
 明らかに到着時間が遅くなって食事時間に間に合わない事が確実な時には、キャンセルしておきますが、微妙な時には多少の無理や誤魔化しを言って夕食をお願いしていました。
 
 宿に着いて、クーラーボックスの中身や飲料水タンク、食料品関係、解け残った氷などの最低限の片つけをして、車を止め、バイクを安全な場所(盗難やいたずらに対して)に止め、車体めカバーを掛けてロープで縛って、部屋に荷物を上げて、風呂を後回しにして大広間向かうと、

  冷め切って乾き始めた食事が4つ片隅に取り残されており、食べ終わる端から下膳されていくという状態です。
 
 宿の給仕係りの従業員は仕事が終わるまで帰る事が出来ないので、到着が遅れる影響は即、給仕係りの負担になっていました。われわれにとっては非日常の連続でも、そこで暮らす人々にとっては毎日の日常です、「時間のルールを守れない一組の客」に対して好意的であるはずもありません。
 
9.0)正確な走りをするランナー

 実は、ランナー澤本さんは、驚くほど正確な走り方をします。 それはまるで距離計が内臓されているかのごとくスタートからの走行距離を把握しながら走っているんです。
 
 これは後のリハーサルを通して判った事なんですが、 何千キロを走る人が、何百メートルを常に把握しながら走っているんです。  そのために、目標地点まであと何キロあるのか?といった事を常に把握しておく必要がありました。
 
 そのため、終了地点まで残り20Kmを切ってから、ミスコースをしてしまうと、誤魔化しきれずに判ってしまいます。 時間に遅れる事で誰かの負担を強いる事になるという事態を避けるため、ランナーは走るペースを上げることで時間を守ろうとします。
 
 ・・・結果として、時間的余裕が無い企画ゆえ、すべての負担はランナーの二本の足とメンタルな部分に掛かってしまいます。
 
 「道案内の正確さ」は、企画の成功か否かを直接左右する重要なポイントでした。
=== 7)道案内をどうするか? ===
8)必要資材の調達方法
6)地元の人々との交流について
資料室に戻る
下の写真をクリックしても資料室に戻ります