66)蝦夷羆の話(その五)
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知床の羆
 通常野生の羆など肉眼で見る事など出来ないものなのですが、あるとき遊歩道を散策中にひょっこりと森の中から羆の親子が現れました。
斜面と平地の際をこちらに向かって歩いてくる羆の写真
5-1)
 断崖に突き出た展望台で周囲を観察していたら・・・森の中から羆が出てきました。

・・・こちらの背後は断崖です。ヒグマが迫ってきても逃げ場はありません!

 ついにベアースプレー(クマ撃退唐辛子スプレー)を使う時が来たかと、覚悟を決めて羆の動向を見守ります。
斜面の際から平地の草原のほうに向かう親子羆の写真
5-2)
 よく見ると親子熊のようです。
  よく見ると親子熊のようです。研究によると子連れの母羆は怖いらしい・・・
 それは雄の羆の習性によるもので、雄は母熊と繁殖行動するために、邪魔な小熊を食い殺してしまう。 残酷な事に小熊を失った雌羆は再び発情し、雄羆を受け入れるという、 そんな事があるので母羆は小熊に近付く外敵に猛然と攻撃してくる。

 この状況で母熊に敵と認識されたら確実に襲われてしまう。もし巨大な雄羆がこちらを「えさ」として捕食の為に襲ってきたなら残念ながら助かる事は難しい、しかし雌羆が小熊を守る為の排除の攻撃であれば逃げ延びるチャンスはある。

 まずは危険な敵と認識されないように、羆の存在に気が付いていないふりをする。まったくの無関心を装いながら、静かに観察を続けます。幸いにも周りには誰も人がおらず、騒がれる事がありません。

 別の場所で起きた事例では団体観光客の行き交う遊歩道脇に親子熊が出没し、それを見つけた観光客が騒ぎ、母羆が威嚇行動に出るといった緊迫した状況になったようです。観光客が大声で歌を歌い羆を刺激している様子がテレビのニュース映像で流されていました。

 様々な考えが早送りで頭の中を廻り・・・もし襲われても命までは取られないだろう。という根拠に乏しい結論を盾に、ベアースプレーを握り締めて動静を伺います。
フレペの滝遊歩道を悠然と横断する羆の親子の写真
5-3)
ここは観光客の行き交う遊歩道です。
 こちらには来ない様子だとわかって少し余裕をもって観察を開始しました。

 それにしても観光バスがどっとやってくるような人の多い観光名所で羆の親子を見る事になるとは思いませんでした。
草原の方に先に進んでいってしまった母熊を探している子羆の写真
5-4)
小熊が母熊とはぐれそうになっています。
 もしこんな状況で間違って小熊に近寄ってしまったらどういう事態が起こるのでしょう?
はぐれそうになっている小熊を振り返って呼んでいる母羆の写真
5-5)
母熊が呼んでいます。
 いつ観光客が来てもおかしくありませんが、今の自分の状況から何も出来ません。人がこない事を祈る事しかできません。
草原の中を人の方にどんどん進んでいく羆親子の写真
5-6)
 羆の親子はどんどん人の方に近寄っていきます。
草の長けが長いのでもう母熊しか見えません。

 蝦夷鹿の群れが遠巻きに警戒しています。

 遊歩道を歩いていた観光客も羆に気が付いたようです 
さらに観光客のいる所に向かって草原を歩いていく羆の写真
5-7)
 人の存在に気が付いてもお構いなしに進んでいきます。 見た目がかわいいといっても相手は野生の羆です。人を捕食する事もある大型の雑食獣です。 蝦夷鹿を怒らせてもせいぜい頭突きを食らう程度ですが、羆を怒らせると、人間など簡単に殺されてしまいます。

 人の存在を全く恐れない羆を「新世代クマ」と呼ぶそうです。
草原の上に作られた展望台にむかって伸びている高架木道の写真
5-8)
 観光客が多数訪れる「知床五湖」周辺では羆との事故を防ぐ目的で電気柵を施した高架木道*(全長約250m)が整備されています。
*2006年当時
羆出没の為に閉鎖された遊歩道の写真
5-9)
 普通の遊歩道も健在ですが、コースによっては、羆の出没の為、度々閉鎖されているようです。
樹木の傷跡の下を無防備に歩いている人の写真
5-10)
 実は羆が人前に出て来るのではなく、人々が羆の縄張りに入っているようです。

 羆と人が共存するために新しい知恵が必要な時期なのかもしれません。
 
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