一日目 / 十五

 小樽港23時30分発 舞鶴行き新日本海フェリー乗船 
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8月10日
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1)
 夜になってから今夜の舟に乗るぞと思い立ち、バイクに荷物をくくり付け港へ急ぎます。既に北海道の夏の終わりを告げる冷んやりとした空気が夜の高速に漂っています。絡みつく冷たい風をアクセル満開で振り切って真夏に向けて加速します。

 この旅で優先順位の一番が九州の知覧特攻平和会館で手紙を読む事、後は同列で日和佐のほたる村、徳島の阿波踊り、高知のよさこい、四国の山を楽しむ、四国の川に飛び込む、フェリーの船旅を楽しむ、など等、そして基本となるバイクで様々な道を走って楽しむ、ついでに旨いものにもありつきたい

 札樽道(さっそんどう)を終点で下りると小樽港ではフェリーがライトアップされて出航準備をしています。このフェリーには後部に2箇所の開口部と、タラップを上った上階にも開口部があり、合計三箇所の車両出入り口があります。

 バイクはタラップを上がった上部の入り口から入ります。

 小樽港を23時30分出航のフェリーに乗って、福井県の舞鶴港まで20時間(約1000km)の航海から旅が始まります。
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2)
 お盆前の南行きの便は当日飛び込みで乗船出来るのがありがたい。

 乗船係員の指示に従って、一台づつバイクでフェリーの鋼鉄製タラップを上って車両甲板に上ります。 バイクは船体後部の専用積載エリアに誘導されます。 係員の指示でバイクを停めて、荷崩れ防止の為に積載している荷物を解いて、壁際の網棚に上げるなどしてバイクを空荷状態にします。

 準備が出来たら順次係員がバイクをロープ、タイダウン等で甲板に固定していきます。船が出港すると車両甲板は施錠されて立ち入り出来なくなるので、必要な荷物は船室に持ち込みます。
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3)
 乗船したらまずは二等船室(雑魚寝部屋)に寝場所を決めて荷物を置いて場所を確保します。 皆決まってオセロゲームのように角を取りたがる(笑) 込み合う時期は隣の鼾(いびき)対策に耳栓を持参するとよろし、大浴場で一風呂浴びて後部デッキで潮風を肴にビールを飲ります。

 出航時間になると、接岸のロープが解かれ、汽笛の合図も無いままに巨大なエンジンが静寂を打ち破って重低音の唸りを上げ、その蹴り出す海水が激しく岸壁にぶつかり波飛沫が立ち上がります。全長224mの船体は、ぬめぬめと黒光りする漆黒の海面を割ってゆっくり港を離れます。風呂上りの身体にひんやり乾いた潮風が心地よい。

 遠ざかる小樽の町明かりに旅の船出を味わう時間。  
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4)
 小樽の町明かりが豆粒に変わる頃、月の元気が倍増します。今夜は月の綺麗な航海になりそうです。

 波の穏やかな星降る夜は船室に入ってしまうのがもったいない。ビールをチビチビ飲りながら潮風に吹かれ続けます。

 左舷の対岸には積丹半島の断崖に点在する小さな漁村の明かりが見えては消え見えては消えていきます。一万七千トンの巨大フェリーは積丹のウニ達や眠っているホッケ達の上を南に向かって爆進しています。そのスピードに月の光が黒い海面にぶつかって飛び散り、そのまま沁みこんでいきます。

 無理をしなければ長旅には出られない、出来る無理ならしておこう、いずれにせよ両手にはそれぞれ一つづつしか物を持てない掴めない。

 消灯になって乗客が寝静まったら、デッキの片隅にマットを敷いて密かに寝の体勢へ

 星空を布団代わりに目を閉じれば、あわただしい日常から非日常の旅人への起動スイッチが作動します。次に目覚める時にはプチ放浪の旅人モードに切り替わっているはず。
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