56)蝦夷鹿の話(その一)
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蝦夷鹿(えぞしか)キャンプ場 
 蝦夷鹿(エゾシカ)の蝦夷(エゾ)とはかつて北海道のことを蝦夷と呼んでいた所から北海道固有物などによく使われる名称です。たとえば蝦夷富士(エゾフジ)といえば普通は羊蹄山(ヨウテイザン)を指します。また、蝦夷の誉(エゾノホマレ)といえば倶知安(クッチャン)町の地酒で油断して飲むと腰砕けになる美味く危険な「どぶろく」です。
 
 仕事の都合で北海道の世界自然遺産知床にあるキャンプ場で、一夏の間ベースキャンプを張る事になりました。 そこにはなんとキャンプ場の中で蝦夷鹿の群れが暮らしていました。 鹿達はキャンプ場周辺の森を餌場とした生活を送り、夜になるとキャンプサイトの芝生で眠っていました。 これはチャンス!と、じっくりと蝦夷鹿を観察することにしました。
キャンプサイトの芝生で草を食むエゾシカの写真
1-1)
 このキャンプ場ではテントサイトの芝生の手入れを蝦夷鹿がしてくれていました。少し伸びた草を食べつつ、時折肥料を撒きながら広い範囲をゆっくり移動していきます。

 テントを張る時はその有機肥料(鹿の糞)に注意して作業にあたることが大切です。
「蝦夷鹿が撒く有機肥料」
キャンプサイトに張られたのテントのすぐそばで草を食むエゾシカの写真
1-2)
 テントと比較すると蝦夷鹿の大きさがわかります。奈良公園にいる鹿よりも大きいのです。基本的に動物は北に行く程大きくなる傾向があるようです。逆に南の屋久島に暮らす屋久鹿はとても小さいです。 こんな状態で何も知らずにテントで寝ていると、「フゴフゴ」「ミシミシ」「フゴフゴ」「ミシミシ」「フゴフゴ」「ミシミシ」・・・・・

 だんだん音が大きくなり、なにか得体の知れない生物が近付く気配がして不気味に感じます。「フゴフゴ」鼻息です 「ミシミシ」草を噛み千切る音です。鼻息でゴミなどを吹き飛ばして草だけを食べているようです。
キャンプ場の芝生の上でやさしい顔で寛ぐ子鹿の写真
1-3)
 この春先に生まれた小鹿ちゃんです。まだ母乳を飲んでいます。ここではこんなにも蝦夷鹿の子供に近付く事が出来ます。でもほんとうはそれは不自然な事なのです。もしこれがヒグマの子供だとしたら、近付くと怒った母熊にぶっ飛ばされてしまいます。
車両乗り入れ可能キャンプサイトで仲良く寄り添うエゾシカの親子の写真
1-4)
 このキャンプ場を始めて訪れる人は、皆、目の前で悠然と草を食む蝦夷鹿に驚きます。 北海道内でもこのようなキャンプ場は珍しいのです。写真右端の母鹿はやや警戒していますが、左端の親子は特に警戒していません。蝦夷鹿は皆同じに見えてもそれぞれに個性があります。毎日毎日顔を合わせているうちに顔なじみになってしまう鹿もあれば、それでも警戒する鹿もいます。

 この状態からは想像出来ませんが、この土地に古くから住んでいる人は、昔は人里で蝦夷鹿など見る事が無かったと言います。
森に溶け込む色合いのテントの周りでエゾシカ達が草を食んでいる写真
1-5)
 これがベースキャンプです。大型テントにベッドにテーブルと椅子を設え、外には昼寝用のハンモックを吊るしました。この場所は少し低くなっていてテントの裏には倒木の廃材が山積みになっています。

 朝一番に啄木鳥達が朽木の虫を食べに来ます、その次に蝦夷鹿達が下草を食べに来ます。それぞれにテントの窓のメッシュごしに目が合いますが、慣れてしまうと特に気にする様子は無くなります。ここでは蝦夷鹿は人から逃げようとはしません。なぜそのような事になったのでしょう?
木漏れ日の中で寄り添って草を食む鹿の親子の写真
1-6)
 親子で仲良く草を食んでいます。でも小鹿はまだおかあさんのおっぱいがほしいようです。 時々甘い鼻声を出しておっぱいをねだります。小鹿は母鹿の姿を見て育ちます。母鹿は小鹿を守る為に、それが危険な存在であるか否かを目で見て判断しているようです。

 基本的に子を持つ野性動物は外敵に対して神経質になったり攻撃的になったりしますが、ここの蝦夷鹿にとって人間は危険は無いという判断をされているようです。
芝生のキャンプサイトで昼寝をしている人達のそばで同じく昼寝をしているエゾシカの群れの写真
1-7)
 これは2006年の心地よい夏の昼下がりの図です。人も鹿もゆったりと寛いでいます。 鹿達はのんびり構えているように見えます。
芝生の一角に子鹿達が集って寛いでいる写真
1-8)
 ここは臨時託児所状態になっています。一頭の母鹿が子供達をみています。その間自由になった母鹿は一生懸命草を食べます。そして母鹿達はたまに交代しながら皆で協力しあって草を食べ小鹿を守っています。
テントのそばで芝生に寝転んで寛ぐ4人の若者のそばで同じく芝生に寛ぐ9頭のエゾシカの群れの写真
1-9)
 おなかがいっぱいになったらみんなで芝生で寛ぎます。ここでは数家族があつまって群れを作って一緒に暮らしています。一見何の不安も無く、まったくもっての平和な家族の光景ですが、「奥様達は野生の蝦夷鹿」です。

 野生の蝦夷鹿には天敵が存在します。敵から家族を守る為、蝦夷鹿の奥様は人間には解らない魔法の言葉を使います。
この春生まれた子鹿の耳にヒソヒソ話をしている母鹿の写真
1-10)
 微笑ましい親子の情愛の図に見えます。

 ・・・実はヒソヒソと大切な事柄を耳打ちしているのです。

 そんなわけないだろう?って、

 そんなわけあるんです(笑)  (その二)に続く・・・
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