59)蝦夷鹿の話(その四)
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どうして蝦夷鹿はキャンプ場で暮らすのでしょう?
 自然保護と人々の暮らし、そのバランス点を探る中でいろいろな要素が絡み合って今の状態があります。
キャンプ場管理小屋に掲示されている「ヒグマがいます!あなたは大丈夫?」と題された注意ポスターの写真
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 このキャンプ場の周りはヒグマの生息地です。

 基本的に北海道全域がヒグマの生息域ですが、ここでは事情があって特にヒグマの人口密度が高いのです。そのため人と接触する可能性が高く、毎年のように人里に現れたヒグマがハンターに撃たれる事態が発生しています。

 キャンプ場受付に掲げられた注意看板
キャンプ場を囲うように設置されている電気柵の「ヒグマ対策 電気柵 稼動中!!」の注意看板の写真
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 そこで、ヒグマが森の中から人里に出て来られないようにと、人の生活圏と森の間を高圧電流を流した電気策で囲って境界線を設けています。

 この装置は主に牧場などで牛が逃げないようにする為の牧柵に使われています。 牧場の牛達は電気柵に触れると感電するという事を学習すると、たとえ電気が流れていなくても、もう電気柵に触れなくなります。間違って人も触るとビリビリ感電してしまいます。基本的に命に別状ありませんが、けっこう痛いし、まずびっくりします(笑)
電気柵の内側のキャンプ場内に出没している蝦夷鹿の母の写真
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 しかし、境界線の中になぜか蝦夷鹿が入っています。運動能力の高い野生の蝦夷鹿にとってあの程度の柵を飛び越えることなど簡単なことなのです。また、人間の生活圏にいた方がヒグマの危険から身を守る上で都合が良い事を知っているのです。

 この地域では特別な事情があるので、他の地域で蝦夷鹿猟が解禁になっても、ここにいる限りハンターに撃たれる心配が無い事も蝦夷鹿たちは知っているのです。
鉄パイプの骨組で囲い緑色のナイロンネットを掛けてエゾシカへの防御を施した民家の車庫の手前にある家庭菜園の写真
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 蝦夷鹿達にとって人が作った畑や花壇の植物は魅力的なごちそうです。通常は人里離れた畑などが蝦夷鹿の食害に合う可能性が高いのですが、この地域では民家の軒先の畑も荒らされてしまいます。

 ここではそうならないように網で囲って作物を守る必要があります。 それでも鹿達は隙を見つけてはせっかく作った作物をあっという間に食べてしまいます。ここに暮らす人達にとって蝦夷鹿は畑を荒らす憎たらしい存在です。
鉄パイプと防護ネットで囲われた民家の庭先の畑の写真
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 人を恐れない蝦夷鹿達は、人が見ている目の前でも堂々と庭先の花壇の草花を食べてしまいます。丹精込めて育てた草花を食われてしまってはたまりません、近隣住民はそれを防ぐ為に徹底的に網で囲うしかありません。

 かつて人里に現れて畑を荒らすような鹿はハンターに撃たれて鹿鍋にされてしまいました。そうして自然な形で人の生活圏と鹿の生活圏に見えない境界線が存在していました。
道路脇に植えられたエゾシカの食害を防ぐ為の水色のナイロンの網を幾重にも撒きつけられたたくさんの細めの街路樹の写真
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 街路樹も鹿に食べられてしまいます。木々は樹皮を一周全て食べられてしまうと枯れてしまいます。 たとえば植樹などしても、対策を講じないとあっというまに食べられてしまいます

 また、全ての木々に対策を施すのは現実的には難しいのです。蝦夷鹿にとって生きていくために食べるのですが、それが回復不能な自然破壊となってしまう現実があります。

 実は街路樹に限らず森の木々も被害は危機的状態になっているのです。
新しく設置された電気柵に掲示されている「危険さわるな!」感電を注意する黄色いプラスチックプレートの写真
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 そんな事態を打開しようと、2006年秋に更なる強力な電気柵を設置しました。

 そして木々の葉が落ち、雪が降る頃、大勢の人員を使って人里にいる蝦夷鹿を一頭残らず全て柵の外に追い出して柵を閉じました。

 そうして町の中から蝦夷鹿を完全に追い出す事に成功しました。
2メートル以上ある丈夫な鉄パイプの支柱の間を丈夫な金属性の網目で繋ぐ構造で作られている見た目も美しく頼りがいのあるエゾシカ防護柵の写真
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 新たに設置された柵は高さ2メートル以上もあり、鹿の侵入を完全に防ぐ事の出来る立派な電気柵です。

 もちろんヒグマの進入も防ぐ大掛かりな設備です。

 それは人と自然の確たる境界線になる・・・予定でした。
立派な防護柵の内側で寛ぐエゾシカを仲良くしゃがんで観察している人の親子の写真
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・・・それでも春には元の状態に戻ってしまいました。 
エゾシカ防護柵の前で三人並んでポーズをとっているエゾシカの親子の写真
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 蝦夷鹿の親子の図です。(2007年夏)
右が母親、左が昨年生まれたお姉ちゃん、真ん中が今年生まれた妹ちゃんです。

 鹿は夏毛と冬毛が入れ替わるので、身体の模様から正確な照合は出来ませんでしたが、どうやらこの母鹿は昨年このキャンプ場で子育てに成功した母鹿ではないかと思われます。母鹿はこの場所が子育てに適していると学習してしまったようです。

 しかし事態の打開が図れないという事で、人間達はいままでの保護の姿勢を一転、一定数の駆除を行うという事にしたようです。(2008年) そうなると人に慣れてしまったこの鹿の親子は真っ先に撃たれてしまう事でしょう。
 
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