70)湧別原野オホーツククロスカントリースキー大会2008 |
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猛吹雪で中止の巻 2008年2月21日 |
この大会は、かつての名称は「原野湧別オホーツク100kmスキーマラソン」といい駅伝エントリーは100kmの距離を走り、個人参加の最長コースは湧別原野コースの85kmでした。そんなところから通称「湧別85キロ」と呼ばれて親しまれた大会でした。しかし諸事情により50kmの距離に短縮されての開催になりましたが、昨年(2007)は大雨による災害の影響で中止になり、今年も前日からの暴風雪のために中止になってしまいました。不運な事にこれで二年連続の中止です。
以前も一度大会前夜に暴風が吹き荒れた事がありました。その時は当日天候は急速に回復するということで、午後から遠軽町のポイントからゴールまでの25kmに短縮して開催された経緯がありました。しかし、スタート時刻の午後1時を回っても時折強風は続きました。追い風で進んでいるうちはまだ良いのですが、湧別川を渡る橋の上で強風にさらされてしまう状態がおきて一部参加者にとっては危険な状況もありました。
今回の状況はその当時の暴風に近い事態なので中止の決定は妥当だと思います。自然は人間の都合では動いてませんので「しかたない」の一言で終了です。来期の開催に期待します。
せっかくの猛吹雪遭遇ですから、記録を兼ねて探検に出掛けてみました。特に内地の雪の降らない地域の人にとっては猛吹雪といってもピンと来ないでしょうから、その怖さについてのレポートをしてみます。 |
1)
ここは上湧別町文化センター駐車場です。一晩続いた猛吹雪のため駐車場のいたるところに大きな吹き溜まりができていました。風下側に大きく発達しています。
ここには大会運営本部があり、ゴール地点であり、スタート地点までの送迎バスの始発点になっています。向かいには露天風呂ありの温泉施設があり、近くに商店や飲食店があります。かつて交通の要所であった旧国鉄中湧別駅跡地に建てられた文化センターは立地条件が良く、この場所にベースを構えて大会に参加するのががとても調子良いのです。
夜半より威力を増した強風が車体を揺らし、舟に乗っているような心地よい揺れに身を任せて一夜を明かしました。おそらくは明日の大会は中止になるだろうな〜との残念な予測がよぎるほどの揺れっぷりでした。 |
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2)
午前6時過ぎ、大会本部に行ってみると・・・大会中止の決定がされました。今回は携帯電話のWeb機能を使って大会の開催の決定が伝えられるように事前に準備がなされていたので、前回の中止及び大会変更の時のような混乱はありませんでした。
そうして朝から予定がぽっかり空いてしまいました。携帯電話で気象情報や道路情報を確認してみると、慎重に行けば行動出来そうです。低気圧に引っ張られて流氷が大きく動いているはず・・・と、ランナーモードから観光モードに切り替えて知床に流氷を見に行ってみることにしました。 |
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3)
すでに夜半より北海道内各地で通行止めが相次ぎ主な国道も峠を中心に通行止めになっているような状態でした。
ここはサロマ湖畔の国道238号です。オホーツク海側から内陸に向かって吹き付ける風雪によって猛吹雪になり吹き溜まりだらけになっています。 |
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4)
広い畑に隣接する道路では、雪原に降り積もった雪が風で運ばれて地表面付近を帯状に流れていきますが、その帯が道路にかかると極端に視程が悪化してしまいます。
たとえ青空が出ていても、強風によって地表面の雪が巻き上がり視程を妨げてしまう状態、地吹雪という現象です。 |
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5)
道端のホテルの看板ははっきり見えていますが、道路前方は全く視程が無い状態になっています。これも一度降り積もった雪が風で運ばれている地吹雪という状態です。
雪原を吹き抜ける強風が雪を巻き込みつつ道路に吹き付けます。そのとき地表面付近の密度の高い吹雪が、道路際の除雪雪壁と道路面の段差で乱流となって巻き上がり、地表面より上下に幅をもって視程を妨げている状態です。 |
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6)
道路前方左には「吹流し柵」が設置されてます。これは地表面を伝ってくる吹雪を目線の高さに巻き上げないように地表面を這うように流す事で視程の悪化を防ぎ、かつ吹き溜まりの形成も防ぐ働きをしています。
柵手前の状態と、柵の設置されている場所の状態の違いが見てとれます。このような場所では交差点や民家の付近など柵の切れ目の通過に特段の注意が必要です。 |
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7)
道路右側に「吹き流し柵」が設置されています。風の流速が早まる柵直近は効果的に吹雪は流れていますが、流速の弱まる道路の端のほうでは、道路と雪原の境界線が見えにくくなっています。
また、道路脇に設置された矢羽の路肩表示板も右側にしかありませんので、道路左の境界線が判り難くなっています。 |
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8)
畑と林が混在する場所を通る道路では、地形や風向き等によって路面状態、視程状態が刻一刻と変化します。この状態は前方に走る車に続いて走っているのですが、車が巻き上げる雪煙も手伝ってはっきり見えません。しかし、こんな状況でも、ある程度の車間距離をあけつつ進んでいくしかないのです。
地吹雪は起こりやすい場所とそうでない場所があり、酷い地吹雪地帯は速やかに抜けてしまうのが得策です。もたもたしていたら吹雪に埋められて行動不能になってしまう可能性があります。 |
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9)
極低速車両に追いつきました。小型特殊の除雪車です。人がゆっくり走る程度の速度で走行しています。ここで負い越しをかけると対向車と正面衝突の危険がありますが、かといってこのまま漫然と低速走行を続けると後ろから追突される危険があります。
除雪車の屋根には黄色い回転等が点灯しています。追いついた後続車はそれを見つけて安全に減速します。しかしそのまた後ろに続く二台目以降の後続車には回転等は見えません。止まっているような乗用車の後部が突然目の前に現れる事になります。
この除雪車は視程が利く瞬間を見て路肩に寄って止まり後続車をかわしてくれました。 |
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10)
地吹雪の特性上、地表面に近い程吹雪の密度が濃く視程が悪く、地表面より離れる、つまり高い位置ほど視程が良いのです。大型車の運転台は乗用車にくらべてはるかに高い位置にあり、ドライバーの目線も高く吹雪の上方を見通す事が出来るので視程が良いのです。
その反面大型車の後ろでは、車両が強力に巻き起こす雪煙によって極端に視程の悪い状態になってしまいます。吹雪の中をいい調子で走行する大型車に続くのは困難きわまる部分です。それでも国道などでは大型車と連なって走行せざるをえない場面もあり、その場合極端な視程悪化から道路中央寄りを走行してくる可能性があり、対向車とオフセット正面衝突の危険があります。
この場合は道路左の矢羽標識を目安に、左端に寄って減速し、雪煙と後続車をやり過ごします。 |
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11)
猛吹雪の中では昼間でもライト点灯が常識です。自車の存在を知らせる事がお互いの安全にとって重要です。昼間の猛吹雪の中ではハイビーム点灯が有効な場合もあります。
この車はハイビーム点灯です。 |
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12)
この車はロービーム点灯です。ハイビーム点灯と視認性の違いは明らかです。しかしながら、薄暗くある程度視程が利く状態でハイビーム走行すると対向車に幻惑(眩しさ)をあたえてしまう事にもなりかねないので、状況を見て臨機応変に切り替えることがたいせつです。 |
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13)
これはライトを点けずに走っている白い車です。不慣れなのか道路中央付近を漫然と走ってきてすれ違いました。
猛吹雪の中で白い車に乗る事は極端に視認性の悪い状態になります。たとえば吹き溜まりに突っ込んでスピンして道路上に止まってしまった場合などは、周りの雪の白に同化してしまい他車に発見されずに突っ込まれる危険が高まってしまいます。
ましてやライトを点けずに走行していると、ライトレンズ面に雪が付着して覆ってしまい、いざライトが必要になって点灯しても、雪に覆われたライトはその機能を果たせません。尾灯についても同じです。雪国に生活していても雪に関わる安全意識は様々なので、自ら防衛運転に勤める意識が必要です。 |
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14)
猛吹雪も極まるとこのように視程が無くなってしまう時間が長くなってきます。 森と草原が混在している地形などで、風が圧縮される地形の場所とか地吹雪発生多発地帯に設置された「吹流し柵」と「吹き流し柵」の間とか、大型車とすれ違った瞬間とか、視程無しが短時間であればなんとかなるのですが、
そうではない時にはこまった事態になります。完全に見えなくなってしまえば止まるしかないのですが、見えたり見えなかったりが断続的に繰り返されるような状態ではゆっくり走行を続けて危険地帯の脱出を試みるのが自然な行動です。 |
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15)
しかし、路肩の位置が全く判らない状態で走行していると、いずれ路肩に落ちてしまうのです。これはスピードの出しすぎとかハンドル操作のあやまりだとか、運転者の未熟とかそういった話では無く、この状況に遭遇したなら誰しもが同じような状態になってしまうのです。
写真はオホーツク海沿いの国道です。「猛吹雪に遭い視程が無い状態で気が付いたら路肩に落ちて止まってしまった」という状況がハンドルが切られていない事からみてとれます。もしこうなってしまったらあわてても仕方ありませんので、視界が回復するまで他車に衝突される恐怖に耐えながらじっと待つしかありません。むやみに車外に出ると他車に直接轢かれてしまう危険があります。 |
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16)
これは内陸部の弟子屈周辺の道道(地方道)です。人工的構造物も無く、標識も無く、路面以外に目標物となるのものが無い状態で猛吹雪に見舞われたら、だれしもが、このような事態になってしまう可能性があります。
いままで見てきた様々な猛吹雪が原因と思われる路外転落事故を考えると、どうも左に寄る傾向があるように思います。
それは右に寄ると対向車と正面衝突になるという恐怖心理がはたらいているのではないかと思います。根本的な部分として道路は中央部が盛り上がっている構造なので車は自然と路外に向かうという部分はありますが、雪道に関してはその限りではないように思います。
こういう真っ直ぐな路外逸脱の場合はあまり車両の損傷は無いのですが、ここまで車両が傾斜してしまうとエンジンを回し続けるとオイルが回らずにエンジンを壊してしまう可能性があるので速やかにエンジンを止める必要があります。エンジンを止めると寒いのですが、排気ガス中毒という問題もあり、エンジンは止めて視界が回復するまで待つのが無難です。 |
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17)
これは屈斜路湖周辺の一般道上です。走破性のあるトラクターが路外に落ちて立ち往生しています。自力で脱出出来そうですが、視程の無い猛吹雪の中での転落という事を考えれば、そんな中で闇雲にあがくよりは天候の回復を待ってから復旧させたほうが確実です。トラクターは重心が高く乗用車等と比べて転倒の危険が高い乗り物です。それでも一度はハンドルを切って脱出を試みた痕跡がありました。
このように吹き溜まりに突っ込んだ車が道路上にあったり、突っ込んだ車の運転者が猛吹雪の中助けを求めて歩いている可能性もあるので、視界の悪い猛吹雪の中を走行するには細心の注意が必要です。 |
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18)
国道を走行中に枝道の吹き溜まりに乗用車が突っ込んでいるのを見つけました。確認のために枝道を使って切り返して近寄ってみると、助手席のドアが開き中から人が出てきました。既に運転席のドアは雪で開かない状態になっています。
牽引フックがいい位置にあって引けそうなので手短に段取りつけて引っ張ります。しかし深く埋まっているために牽引すると駆動力に負けてタイヤの下の圧雪路面が剥離して下地のアイスバーンが出てしまいます。タイヤの位置を変えて再度引くもタイヤはアイスバーンを掘り出して空転してしまいます。 |
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19)
横から見ると深く刺さっていることがわかります。作戦変更の段取りを説明して少しづつしゃくって慎重に引っ張り出しました。突っ込んでから1時間以上も助けを待っていたそうです。
現場は車体右方向の雪原から地吹雪が吹き付けている状態です。もしこのまま放置すると風下側に吹き溜まりが発達して車体は埋もれていきます。車体後部の排気管の上まで埋まってしまうと、排気ガスは車体の下の空間に流れ込みエンジンルームに到達し、エンジンが自分の出した排気ガスを吸い込むようになります。
そうすると激しい不完全燃焼により急速に排気ガス中の一酸化炭素濃度が高まっていきます。昔の車ではアイドリングが安定しなくなりエンジンは止まってしまう所ですが、優秀な電子制御の利いた現代の車は不完全燃焼しながらもエンジンが止まらないようにアイドリングを続けるのです。
実験によるとその時若干アイドリング回転数を上げて止まってしまわないようにエンジンコントロールが働くようです。その結果高濃度の一酸化炭素が車体の下に充満する事になります、それが少しづつ車内に侵入して乗員に吸引されていきます。車内の一酸化炭素濃度が0.1パーセント程度に達すると深刻な事態になるようです。
この日は北海道各地で吹き溜まりに埋もれて立ち往生する車が続出しました。残念な事にそのうちの一台車の中で死亡している人が発見されてしまいました。 |
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20)
屈斜路湖畔の道路で軽自動車が吹き溜まりに突っ込んで立ち往生していました。「前が見えなくて端に寄りすぎたの」とおばちゃんが車から出てきました。早速はまっている車の後ろに車を停めて牽引の準備をします。
しかし、この軽自動車は牽引フックが奥まっていて手前に樹脂製のバンパーが覆っています。もしそのまま牽引するとロープが張った瞬間に樹脂バンパーを壊してしまいます。さてどうするかと思って車内を見ると・・・マニュアルミッションでした。これなら出せるわ、と運転を代わって程なく脱出成功、あとは自力で乗り切ってと、
そこに除雪車がやってきました。路肩の雪壁から吹き付ける吹雪が丁度軽自動車のフロントガラスを覆うように視程を妨げている様子がわかります。それに比べて除雪車の運転台は頭一つ吹雪の上に出ています。 |
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