19)一本杖スキー 
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20)グスタフバーサー王の気持ち
クロスカントリースキー 
 クロスカントリースキーとは、俗に言う歩くスキーとかノルディックスキーというようなもので、一般的なスキーとの違いは、リフトやゴンドラに乗って山の上まで運んでもらい、「重力による位置エネルギーによって滑走する」ゲレンデスキーに対して、クロスカントリースキーは、「人力で滑走する」という動力源の違いがあります。

 一言でいうと、スキーを履いて走るマラソンのようなものです。冬季オリンピックで荻原選手が走っている姿がそれです。

 北海道では毎年たくさんのクロスカントリースキーマラソンの大会が開催されていますが、出場回数を忘れるほど自分で参加してきている三つの大会がありまして、・・・

 1)札幌国際スキーマラソン50km・・・2月10日(日曜日)
 2)旭川国際バーサースキー大会40km・・・3月21日(春分の日)
 3)湧別原野オホーツク85kmクロスカントリースキー大会・・・2月24日(日曜日)

 以上の三つの大会に今年もエントリーしています。

 ほぼ毎年のように参加している大会ですので、走ること自体になんら不安要素はないのですが、今年は今までに無い新たな走法によっての完走を目指しています。
 それは、あるクロスカントリースキー大会PRポスターに描かれた一人の人物の姿に目がとまった事に端を発します。古めかしいスタイルに身を包んだその人物は、通常のストックを使わずに一本の長い棒を持って走っているという設定で描かれていました。

 遥か昔に遡る一本杖スキーというものだと思いましたが、はたしてそのようなスタイルで本当に長距離を走る事ができるものなのだろうか?という疑問が湧いてきました。
 ・・・という訳で、疑問を解決すべく実際に一本の棒っ切れを持って走ってみることにしました。 2000年冬の事です。歴史的背景や、その人物についてや、そもそもなぜ一本杖で走っているのか?等など全く知る由も無く、単純にポスターに描かれている通りのスタイルでやってみようと思っただけでした。ほぼ、「ふざけ半分」的な発想でした。
 棒っ切れは、取引のあった「カヌー」工房の方にお願いして「カヌーのパドル」の材料を使って、十分な強度のある太さで、240cmの長さの一本杖を作ってもらい、使用するスキーにはノーワックス加工されたテレマークスキーを革紐靴で履くスタイルで2001年の旭川国際バーサースキー大会クロスカントリー40km競技完走を目指しました。
 が、、しかし、、、残り4kmを残してタイムアウトで回収されてしまいました。・・・(泣) 
今シーズンは真剣に取り組みます。
基本は遊び半分ですから、残りの半分は真剣勝負!
まずはそもそも一本杖スキーという物について調べる事からはじめました。 
  その話は、そもそもクロスカントリースキー競技の発祥そのものに関わる部分から始まります。今を遡る事480年前の1520年当時の逸話に登場するスキーです。  
 旭川国際バーサースキー大会のポスターに描かれていたのは、1520年当時の「グスタフ・バーサー」なる人物が、クロスカントリースキーで雪原を走っている様子でした、それは一本の長い棒を持って走る一本杖スキーでした。

 一本杖スキーといえば明治の初めに北海道にスキーを伝えたとされるオーストリー軍人の「レリヒ少佐」が伝えた一本杖スキーがメジャーなところですが、今回取り組むのは、 それを遡る事約400年前、ノルディックスキーの原型となる「グスタフ・バーサー氏」が使っていたであろうというスキーについてです。 
一本杖スキーの写真






 このスキーは北海道網走にある北方民族博物館所蔵の品です。





 注)このスキーは常設展示されていません。今回は事前に申請して許可を受けて取材させてもらいました。
 短い方のスキーの裏には滑り止めの動物の毛皮が貼り付けてあり、長い方のスキーには滑り止めが施されていないとの事で、短い方のスキーで雪面を蹴って、長いスキーで滑走したものと考えられています。滑走用の長いスキーと歩行用の短いスキーを組み合わせて使っていたということですが、左右非対称のスキーは、現代スキーに慣れてしまっている目には斬新なアイデアに思えます。
一本杖スキーをメジャーで計測している写真
1)
 長い方の滑走用のスキーは、全長270cm幅8cm、サイドカーブは無く(ウエストラインがまっすぐ)、厚さが中央部で3cm先端部にかけてテーパー(徐々に細く)がかかっており、薄い部分で1.2cm程度、エンド部分はR5程度の面取り(角が丸められている)がされています。滑走面(裏面)中央部には幅3cm深さ1.5mmの一本溝が前部雪接面後方より彫られており、木材を保護するもしくは滑走性を高めるための保護材が塗られています。
スキー先端の立ち上がりのそりを写した写真
2)
 スキーの先端ショベル部の立ち上がりは4.5cmと割と低く、衝撃に対する耐久性を持たせる目的で肉厚に作られています。短い方の歩行用のスキーは、全長170cm幅9cmサイドカーブは無く、厚さは前面毛皮で覆われているために正確には測れず、ほぼ滑走用のスキーに順ずるテーパー形状になっていると思われます。

 滑走面全体は前方にのみ滑走するためにアザラシと思われる動物の毛皮で覆われており、革紐によって袋状に縫い合わされています。板は一枚の木材を削って作られているいわゆる単板スキーで、ほぼベンド(スキーの反り)は無く、またねじれやゆがみも無い所から、良質な木材より作られているものと思われます。
毛皮の張られたビンディングの部分を写した写真
3)
 滑走用スキーと歩行用スキー両方に共通して、バランスセンター(重心)の位置に、幅5cm長さ12cm厚さ2mmの二枚部品を革紐で縫い合わせる構造のトナカイの皮革製バィンディング(固定器具)が取り付けられており、足元にはトナカイの毛皮が進行方向に毛足が沿うように幅7cm長さ32cmにわたって貼り付けられています。

 ストックの長さは152cmで、3cm程度の外径をもった木の棒っきれにバスケット(皮のリング)と石突きを取り付けた簡単なものです。白樺材ではないだろうかといわれています。
アザラシの毛皮に覆われたキック用スキーの縫合部分を写した写真
4)
 革紐によってスキー全体を包み込むようにアザラシの毛皮で覆っています。二頭のアザラシの毛皮を真中で継ぎを入れて作られていますが、毛皮自体は、全く消耗していない所から実際に使われていたとは思われませんが、

 滑走用のスキーに関しては至る所に磨耗が見られ、また、後端部分には欠損が見られ、更にそれを修理して使い続けていたと思われる痕跡がみて取れます、またある程度の速度で摩擦したと思われる長さのある傷も入っており、実際に使われていたものと思われます。
滑走用スキーとキック用スキーの滑走面の比較写真
5)
 同じ幅をもつ二本のスキーは、左右履き替える。もしくは引き返す時など、トレース(滑走跡)を有効に活用するための工夫かと思われます。
左右のスキーの滑走面の拡大比較写真
6)
 片方が滑走用でもう片方が歩行用といった組み合わせで活用できる状況というのは、少なくとも平地か高低差の極めて少ない丘陵地帯。もしくはあらかじめつけられたトレースの中を走る場合に限られると思われます。

 移動速度が100パーセントの歩く速度であれば、あえて長い滑走用のスキーを履く必要性が無く、両方共毛皮で覆われた短いスキーをはいていれば確実に歩く事が出来ます。
滑り安いように加工された滑走用スキーの滑走面の写真
7)
 また、滑走面に溝が彫られているという事も、ある程度の速度での移動手段であったのではないかという予測の根拠になっています。一歩一歩の歩幅で歩くだけであれば、特にこのような高速安定性を高める細工の必要性がないからです。

 キックスケーターのように、あらかじめつけられたトレースの中を軽快に滑走したのではないかとの推測をしています。
一本杖スキーを履くためのトナカイの毛皮で作られた靴の写真
8)
サミ族の靴です、
底部に施されたトナカイの毛革によってバインディング底部に貼り付けられた毛皮との毛足の方向をかみ合わせるようにする事によって、常に前方に靴を推し進める力が働き続けるような構造にする事によって、簡単なストラップ(皮ベルト)で靴の先端部、拇指球の部分を抑えるだけで、スキーのコントロールが可能になっているものと思われます。
*常設展示物
クロスボウを背負って一本杖スキーを使っているイラストの写真
9)
 狩猟の道具としての使われ方の例のイラストです。
 左右のスキーの長さが違うように見えますが、このように腕の力があまり使えずに、さらに荷物をもっての歩行となれば、勢いや、反動をつけての速度のある軽快な歩行を目指すの難しく、一歩一歩の歩幅の歩行という事であれば、両方のスキーに毛皮などの滑り止め等が施されていなくては、ちょっとした斜面であっても登っていくことは困難になります。
一本杖スキーに乗ってトナカイを引いて集団を引率しているイラストの写真
10)
 トナカイの食料である岩につく苔を求めて遊牧して歩く状態を表すイラストのようです。スキーを履いた先頭の人間が先頭のトナカイ引く事で、後に繋がれたトナカイの一段を率いる事が出来るということを表しています。トナカイの餌の苔は成長が遅く、一所に長くとどまっている事が出来無かったようです。
一本杖の先端を槍として使っているイラストの写真
11)
 こちらは狩猟の道具としての使われ方のイラストです。ストックとなるべき一本杖が、その用途によって先端の形状が様様に変化するということのようで、イラストでは先端がスコップ状になっています。ほかにも、ノミのような形状をしていたり、槍のような形状をしていたりと、かなりのバリエーションがあったようです。
スキーを履いてトナカイに牽引されて移動しているイラストの写真
12)
 上のイラストもそうですが、やわらかい新雪がどっさりと降り積もるといった気象条件ではなく、ある程度固まっている状態で使用している事がみてとれます。それによって、ストックの先端にバスケットリングがついていない理由も説明がつきます。

 野生のトナカイを捕まえているところなのか?トナカイに引かせて移動しているものなのかは判りませんが、雪深い土地で使っているのではないという事が漠然と伝わってきます。
狩猟犬と共に走る一本杖スキーに乗った狩人のイラストの写真
13)
 先の鋭い杖で雪面を突いて進んでいるとしたなら、相当硬い雪面であるという予想が立ちます。また、硬い雪面であれば、アザラシの毛皮を使わなくても松脂などの樹脂を使ってグリップワックスにするという技を身に付ける事が出来ればこのイラストのように軽快に走る事も可能になると思います、
実際に一本杖スキーを使っている所を写した写真
14)
 この写真は、左右のスキーの長さが同じものを使っていますが、アザラシの毛皮が使われているかどうかは判りません。この時代にスケーティング走法はありませんから、何がしかの滑り止めを施していたものと思われます、
昔のスノーシューの写真
15)
 このようなスノーシュー(カンジキ)を使っていた民族とスキーを使っていた民族では根本的な発想の違いがあるように思います。
*常設展示物 
 1520年スェーデンの建国を果たした「グスタフ・バーサー王」が残した武勇伝によると、このような道具を使い、敵兵に追われて雪原を87km走り、逃れた切ったとされています。

 現在、機能別の左右非対称のスキーを使って、一本杖を持ち、実走実験を繰り返しています。 スキーマラソン大会の最後尾を走るタイムアウト回収車に捕まらないように、制限時間内に走り切れるように、思考錯誤とトレーニングを重ねています。
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