47)バイクに乗って旅に出た2005夏(その四) 
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四国の山道=剣山スーパー林道
 四国の山は懐が深い、生まれも育ちも北海道民としては水平方向の自然は見慣れていますが、垂直方向の自然には馴染みがありません。北海道には日本最大の国立公園の大雪山系や氷河地形の残る鋭瞬な日高山脈等がありますが、いずれも雪や氷に鍛えられた冬の山域です。四国の山は豊富な雨に鍛えられた鋭瞬な夏の山域です。(単なるイメージです)

 そんな未知の感覚を求めて船に乗って四国に渡り、日本一長い林道と誉れ高い剣山スーパー林道で山奥に分け入るのです。しかし訪れる回を重ねるごとに、どこになにがあるのかがだいたい解ってしまっているので、たまには新鮮な感覚を求めて夜中に行ってみることにしました。

 阿波踊りの最終日を終えた「後の祭り」の余韻漂う徳島市内を昼過ぎに出発し、国道55号から県道16号を進み上勝町より剣山スーパー林道(以下剣山林道に同じ)に入ります。上勝町で燃料を入れ商店で食料の買出しをして店主と世間話をします。先シーズンの台風被害が酷く未だに回復出来ていない部分もあり注意が必要であるという事です。

 上勝町は「いろどり」という事業(刺身のツマのもみじなどの葉っぱを商品化する事)に成功している地域ですが、安定した収入があっても、就学の関係で子供のいる若い夫婦は都会に出て行くケースが多く急速に過疎化が進んでいる現実があるそうです。冬になると山には雪が積もり、道路も凍ってしまう事があり、都会に通う事も簡単ではないようです。

 店の前も凍ってしまい困る事があるというので、大き目のペットボトルに砂を入れて車に積んでおくと便利ですよと北海道でやっている方法を話してみました。凍結するのは深夜から朝にかけてで日中は解けてしまう事から根本的な対策がなされないまま放置さてれてきたのかもしれません。・・・などなど店主との世間話が盛り上がり、すっかり日も落ち辺りは暗くなった頃剣山林道に向けて走りはじめました。
47)バイク旅(その四)の1
暗闇にバイクのライトに照らされて浮かび上がる通行止めのバリケードと看板の写真
 「ナビ様」(車載GPS)がいてくれたら知らない夜道もへっちゃらです。ナビ様におよその位置と進行方向だけが解るように、地図縮尺を大きく表示させ、適当に山中に分け入ります。途中通行止めの標識を迂回するあたりで、目的通り道に迷い、真っ暗な山中を迷走します。

 さまよっているうち国道438号に迷い出てしまい山中の花火大会に出くわしました。縦に長い谷間の花火大会は音も縦に長いのが面白い。その後国道193号を通って正規ルートに戻ろうとしましたが、登り詰めていよいよ峠越え地点のあたりで、この写真の看板に行く手を止められました。察するにかなりやばそうなので、もう闇雲に動いても危ないので、ここで一夜を明かす事にしました。
47)バイク旅(その四)の2
道路崩壊現場手前の広場でバイクを停め傍らで野宿して過ごした朝の風景の写真
 路肩にバイクを停めエアマットを膨らませ、バイクの車体カバーに包まって一夜を過ごします。夜露の降りない地域限定の楽しみです。周囲何キロにわたって人の気配が無く、まったく車通りも皆無で、羆(ひぐま)などの怖い動物もいないので安心して静寂の星見酒を楽しみます。

 添い寝役の紙パックの焼酎が枕になる頃には、地面に潜り込むように深いまどろみに入ります。やがて星が一つ一つ消えていき、暗闇からやってきた淡い群青色が鋭い山並みの影絵を映し出します、鳥達が朝の喜びを歌い始め、暗闇がいなくなると、100個並べたセミ型ブザーのスイッチが入り飛び起きます。コーヒーでパンを齧り、ブーツを履いて活動開始です。
47)バイク旅(その四)の3
体育館の屋根で作ったスプーンでえぐり取ったような規模で破壊されている現場の写真
 国道193号崩壊の現場です。本気で壊れてます。素人目にも復旧が容易で無い事が判る壊れっぷりです。ここは歩いて通るための歩道が斜面の上部につけられていました。

 出発準備完了して写真を撮るためにしっかり明るくなるのを待っていると、谷間の遥か下の方から車が近付く音がしてきます、復旧工事作業員の方が現場にやってきました。早速挨拶して話を伺います。バイクを見てこれなら行けるだろうと教えてくれた迂回路は、一旦谷に下りて細い砂利道を幾重にも折り重ねるように登り返して対岸の道に辿り着く道でした。

 剣山林道についての話では、春のシーズン始めに一台のバイクが通行止めの標識を無視して強行突破するも失敗し崖下に転落、怪我をしながらも自力で歩いて救助を求めたそうです。しかしそのやりかたがまずかったらしく、転落場所の特定がうまくいかなかった事から始まり、余計な大迷惑を掛ける事になり、関係当局を激怒させてしまいあやうく剣山林道は今シーズン通行止めになる処だったそうです。 ・・・遠回しに釘を刺されているような話でした(笑)
47)バイク旅(その四)の4
地上4メートルはある剣山スーパー林道起点の看板の写真
 しっかりした看板からからわかるように、剣山スーパー林道は観光資源としての役割をもっています。

 このシーズンは先シーズンの台風の傷跡が随所に残り、剣山スーパー林道周辺の林道は殆ど復旧されていない現実があります。それは道路を直す予算の都合から優先順位をつけて復旧工事をしていること、一箇所の復旧にかかる費用が膨大なものになっていることがあるように思います。

 周辺林道がのきなみ通行止めのままなので、今回は通行可能な剣山スーパー林道だけを何度も何度も往復する事になりました。せっかく何度も往復するので思う存分走った後に、記録を付けるために写真を撮る事にしました。
47)バイク旅(その四)の5
美しい翡翠色の水をたたえる道端の砂防ダムを上から見た写真
 まずは沢伝いに簡易舗装された道を登っていきます。綺麗な川です。水量は数トン程度でしょうか? 川の水量を表すにはあらかじめ川の中に設置された水位ゲージで水深で表す方法と 「1立方メートル/毎秒」という単位で実流量を表す方法があります。

 大雨の時のニュースで河川の危険水位とか警戒水位とか言うのが水位ゲージによるもので、ダムの放水とかの場合、放水水量など実流量の「何トン」という言い方をします。(毎秒何トン) 川の実流量は大雑把に表すと、川幅×水深×流速になります。単位は「何トン毎秒」です。また言うまでも無い事ですが、1立方メートルの水は1トンです。基本的に都会の実生活には直接関係ないので、あまり考える事が無い事です。
47)バイク旅(その四)の6
沢沿いに登り詰めていく道から、巨大な岩がゴロゴロしている川原を見下ろした写真
 川の中ほどに大きな岩があります。角が取れて丸まっている事から、この岩は始めからここにあったものでは無く、上流から流れてきたものか、山の上から崩れ落ちてきたと考えられます。

 この大岩は黙って10トン以上の大きさ(容積が10立方メートル以上ある)があります。この斜度の少ない場所でこの大岩が流される程の水流とはどれ程のもなのか?この穏やかな状況からは想像つきにくいですが、この川の上流域で支流も含め広い範囲で豪雨があれば、川が溢れて道路の辺りまで増水する可能性は十分考えられます。

 この川に毎秒100トンの水が流れ込んだとしたら、20トンの大岩も押し流されてしまうかも?と想像出来ます。しかし近年の傾向として、狭い地域に短時間で凶悪な豪雨が襲い、局所的に徹底破壊してしまうという怖い状態になっています。

 ここでもう一度国道193号崩壊の現場写真を見て下さい。そこは1330m峰から派生する尾根上の標高770m地点で、平均斜度は18度の尾根を回り込む地点なのです。

 つまり、どんなに雨が降ろうとも水が流れ込む場所では無いのです。通常ありえない事ですが、ちょうどシャワーでシャンプーを洗い流すように、ピンポイント的集中豪雨が尾根を洗い流してしまった爪跡なのです。
47)バイク旅(その四)の7
夏のまばゆい日差しの下、濡れて輝く簡易舗装道路上で、軽オフロードバイクとすれ違っている写真
 この辺りは標高450m付近で、川の氾濫で流されなかった岩盤を削るようにして道を付けています。路面は簡易舗装されていて走りやすいのですが、それに伴って車両の走行スピードが速まるので別の意味での危険が高まります。

 剣山林道は人里から山の上部域まで様々な地形の中を約90kmも走り抜ける変化に富んだ所が面白いのです。この林道は比較的交通量が多いので問題無いのですが、交通量の少ない周囲の林道では、日陰でこのように濡れている事が多い路面には苔が生えている事があり、日常的にタイヤで踏まれる部分以外は、苔が成長していて鬼のように滑る場合があるので注意が必要です。

 苔に乗ると滑って簡単に転ぶのでそれを「コケる」と言うようになったとされています…(嘘)
47)バイク旅(その四)の8
ガードレール沿いに設置された路肩決壊によりこの先幅員減少と明示された看板の写真
 この林道周辺では注意看板が重要です。ここでは誇張も大げさも無く、本当に必要なインフォメーションのみ簡素に現れます。

 都会にあるような「とりあえず危ないと書いとけ」というような「おおかみ少年」的な看板はここにはありません。危険があって当たり前の場所なので、あえて注意看板が出ているという事は余程の事であるとしっかり認識しなければなりません。 その看板のもつ本当の意味を読み取る力が試されます。
副題・・・「看板の心」 
47)バイク旅(その四)の9
砂防ダム建設現場に設置された高さ20メートルのケーブルクレーンの支柱の写真
 深い森の中を抜けて地形に沿って高度を上げていきます。途中数え切れない程の沢を越えて進んでいきますが、地形的に高度の低い里に近い沢は、斜度が緩く幅が広く許容出来る水量も多いのですが、そのぶん雨水が集まりやすいので一般的な大雨でも許容を越えると、もともと沢の中に存在している土砂や上流部より土砂が流れ込み道路が埋められてしまう形の破壊が起ります。

 この現場は道路に堆積した土砂を取り除いた上で、さらに土砂を防ぐ砂防ダムを設置して被害の根本軽減を計る工事をしています。 沢の上流部では、また違った形の破壊が起ります。
副題・・・「水の力」 
47)バイク旅(その四)の10
山深く遠く視界が切れるまで延々と続く林道の写真
視界の限り道が続いています。
ガードレールがあると安心して谷側に停める事が出来ます。 
47)バイク旅(その四)の11
ファーガスの森、高城の山小屋のまえに集まるオフロードバイクの写真
 剣山林道には二箇所の営業小屋があります。 ここを訪れる際には必ず寄って利用する事が大切です。それはこれらの山小屋の営業収益を上げる事は、剣山スーパー林道の整備理由を強化する事になり、山に雇用の場を確保する事に繋がるからです。

 この林道を維持管理してくださる地元の方々に感謝し、末永くこの林道を旅する楽しみを利用者自ら保全する気持ちを持つ事が大切だと思います。
副題・・・「山菜蕎麦」 
47)バイク旅(その四)の12
道幅一杯になって走ってくる黄色い大型ミキサー車の写真
 たまに工事関係の大型車両が通ります。すれ違う事の出来る退避場所で待機して、安全にすれ違うようにします。 基本的に道幅は狭く、一般的な林道と違い、軽自動車同士ですらすれ違う事が困難な場所も多いので、幅の広い車両ではここに来るべきではないと思います。

まして車幅感覚を正確に掴んでいない車などでは乗り入れるべきではありません。四国の山間部では一般的に軽の4輪駆動車やスクーターが交通手段として普及していますが、それは必然からくる物理的理由があるように思います。
副題・・・「すれ違い」
47)バイク旅(その四)の13
岩盤を削りとった斜度80度の法面を進む林道と削り取られた青空の写真
 このような岩盤を削ったり、ダイナマイトでぶっ飛ばしたりして開削した部分には路面にさりげなく岩が露出している部分があったりしますので、通過の際は路面状態に注意が必要です。それらは度々降る雨によって周りを流されて徐々に危険度を増していきます。通過の処理をしくじるとちょっと面倒な事になったりします。
副題・・・「尻で感じる」

副題・・・「ちょっと面倒な事」
47)バイク旅(その四)の14
軽トラックの荷台上から声を掛けてくる少年の写真
 道幅が狭い場所ですれ違うときは互いの距離がギリギリという事が良くあります。安全に交差できる場所を見据えながらゆっくり近付きすれ違います。

 地元ナンバーの軽トラックとすれ違いました。 その瞬間荷台の少年と話をしました。
副題・・・「荷台に乗った少年」
47)バイク旅(その四)の15
東屋のベンチを利用した快適な雨宿り野宿をしている写真。
 3日分の食料、3リットルの水、30リットルのガソリン、そして焼酎が1升あれば何処に行ってもニコニコです。

 「紙パック焼酎は連れて歩くごとに外身も中身も角が取れ身体に優しくなっていく」
副題・・・「やさしい焼酎」
47)バイク旅(その四)の16
遠く霞む山並みに向けて延びる一本の林道にたたずむバイクの写真
 山の向こうまで道は続きます。
・・・・・・・おまけ
 
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